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ウェブアクセシビリティ向上への道 - だれもが使えるサイトを目指して -
No.13 利用者の声を活かしたホームページの運営
ホームページの向こう側にいる多様な利用者の存在を意識する

[ 月刊『広報』 平成18年8月号掲載 ]

米田の写真執筆担当
米田 佳代
(よねだ かよ)


行政の広報担当者に役立つ実務記事などを中心とした行政広報専門誌、 月刊『広報』 で連載している「ウェブアクセシビリティ向上への道 – だれもが使えるサイトを目指して -」の記事を、日本広報協会様のご好意により、転載させていただきます。

広報紙の内容を目で見ることができない、寝たきりで窓口まで手続きに行くのが難しい、といった障害者にとって、自治体ホームページは地域で日常生活を送る上での重要な「情報源」「窓口」となっています。今回は、だれにでも使いやすい自治体ホームページを提供するために欠かせない、多様な利用者を理解し、利用者の声を活かす方法について解説します。

なぜ利用者の声が重要か

ホームページは、目のまったく見えない人、画面がぼやけてしまう人、事故や病気でマウスが握れない人など、実に様々な人が利用しています。利用者の声を聴き、多様な利用者を理解することは、アクセシビリティ確保の必要性・重要性を認識するために最も重要な最初のステップであるといえます。

また、最近の自治体ホームページは情報量が膨大になり、ホームページ上から施設予約や電子申請ができるなど操作も複雑になっています。ホームページにアクセスし、情報を読み取れるかといった最低限のアクセシビリティを確保するだけでなく、必要とする情報を探し出せるか、操作を最後まで行うことができるかなど、実用的に利用できることが求められます。実用性を確保するためには、実際の利用者自身の使い勝手を知ることが必要です。

さらに、利用者の声を聴くことによって、ガイドラインや点検ツールだけでは発見できない問題点を見つけることにも役立ちます。

まずは多様な利用者を知ることから

障害者、高齢者は、それぞれの制約をカバーしてくれる「支援技術」( 注1 )を使ったり、パソコンやブラウザ(ウェブページ閲覧ソフト)の設定を変えたりしてホームページを利用しています。まずは、それぞれの障害を持つ人の特徴、使用している支援技術やパソコン・ブラウザの設定、配慮のないホームページではどんなことが問題となるかなどを知ることから始めましょう。

身近にパソコンを使っている障害者、高齢者がいる場合は、ホームページを利用しているところを見せてもらい、普段どんなホームページを利用しているか、どんなページは利用しづらいかなど聞いてみるといいでしょう。実際の操作を目にすることで、理解が深まるだけでなく、新たな発見も得られます。

様々な本やホームページから情報を得ることもできます。総務省の「みんなの公共サイト運用モデル」( 注2 )のホームページでは、全盲、弱視、肢体不自由の方のホームページ利用方法の紹介ビデオを見ることができます。パソコンボランティア、シニアネットなど、障害者や高齢者のIT活用を支援する団体のホームページでも、障害者、高齢者のパソコンの操作方法やメンバーの活動状況が紹介されています。地域にこのような団体があれば、協力を得て、直接話を聴く機会を持てるかもしれません。障害者や高齢者自身が、日常生活や仕事でどのようにパソコンを活用しているかを紹介しているホームページもたくさんあります。「今月のプラスワン」でも紹介しましたが、弊社の情報提供サイト「A.A.O.」等をぜひ参考にして、探してみてください。

このようにいろいろな手段を活用して、利用者の多様性を理解した上で、「こういう障害を持つ人が自分の自治体のホームページを使うと、こんなところが不便そうだな」と想像力を働かせ、アクセシビリティの改善に活かすことが重要です。

図1
【支援技術の例】画面拡大ソフトを使用している弱視ユーザー
出所:A.A.O. コラム 「弱視にまつわるエトセトラ」

利用者の声を効果的に活かす

ホームページを公開した後で、「情報が受け取れない」「やっぱり使いにくかった」となると、改修のための作業が必要になったり、新たな予算措置を行わなければならなくなったりします。そうならないためにも、リニューアルや、新規にサイトを開設する場合には、企画の初期段階から利用者の声を取り入れることが重要です。

自治体では広聴担当の窓口以外でも、住民や外部からの問い合わせや意見を受け付ける様々な仕組みを工夫していると思います。寄せられた意見の中から、アクセシビリティに関連したものを抜き出し、必要な対応を検討しましょう。技術や予算の面からすぐに対応するのが難しい場合は、次回のリニューアル時に検討するなど長期的対応も必要となりますので、対応の優先度をつけることが大切です。

また、「みんなの公共サイト運用モデル」には、ユーザー評価がアクセシビリティ対応の重要なステップとして取り入れられ、「障害者・高齢者による評価手順」という手順書が用意されています。ぜひ活用してみてください。

利用者との協働の事例――浜松市の取り組み

これまで述べてきたように、利用者と直接コミュニケーションをとることが最も効果的な手段です。静岡県浜松市では、施設予約システム「まつぼっくり」を市民団体を介して全盲の方に検証してもらい、検証に職員や業者が立ち会って、効果的な改善を行いました。現在開発中の図書館蔵書検索・予約システムでもリリース前にユーザー評価をとりいれる予定です。また、子育て情報サイト「ぴっぴ」をNPOと協働して構築するなど、積極的な市民協働に取り組んでいます。この経緯は平成18年3月に開催された総務省主催のウェブアクセシビリティセミナー(名古屋会場)で報告されました。

皆さんも、日常業務の中で、ホームページの向こう側にいる多様な利用者を意識し、利用者の声を活かしたホームページの運営に取り組んでいただきたいと思います。

今月のプラスワン

「ウェブを活用する障害者の声」
平成17年9月、10月に、四肢麻痺、弱視、全盲の方にご協力いただき、A.A.O.サイトのユーザーテストを行いました。A.A.O.では、テストを行ったユーザーの方の臨場感あふれるレポートを紹介しています。サイト運営者として、障害の種類によって使いやすい点、使いにくい点が千差万別であることに改めて気づかされました。ぜひご参照ください。
注1 支援技術 Assistive Technology=AT
障害のある人の生活を支えるために利用される技術。障害による制約をカバーする様々な機器やソフトウェアがあり、パソコンの利用を支援するためには、音声読み上げソフトや入力補助装置などがある。
注2 「みんなの公共サイト運用モデル」
平成16年11月17日から開催された「公共分野におけるアクセシビリティの確保に関する研究会」の検討成果として、17年12月15日に総務省より発表。アライド・ブレインズでは、総務省の委託を受けこのモデルの検討を支援してきた。
総務省サイト「みんなの公共サイト運用モデル」

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