弱視にまつわるエトセトラ
[ 2004年1月30日 ]
執筆担当
伊敷 政英
(いしき まさひで)
ウェブアクセシビリティというと、「画像には適切な代替テキストをつける」「テーブルでは、見出しとデータの関係を明記する」というような技術的なテーマが注目されがちですが、それ以上に「ユーザーの特性やウェブ利用環境について理解する」ということが大切なのではないでしょうか。
そこで今回は、あまり知られていない「弱視」について、先天性の弱視である筆者の場合を例にしながら取り上げてみたいと思います。
「弱視」とは
まず「弱視」とはどのような状態をいうのでしょうか。実は、弱視の定義は医学的、社会的、教育的にも流動的です。現状では、「両眼の矯正視力が0.3未満で、主に視覚による学習や、日常生活におけるさまざまな行動ができる状態」という定義が最も一般的のようです。
ここで重要なのは、「矯正視力が0.3未満」ということです。つまり、めがねやコンタクトレンズを使用しても視力が十分に出ない状態を弱視といいます。「裸眼視力は0.1だけど、コンタクトレンズを入れると1.0になる」という場合、弱視とはいいません。
また視力以外にも、視野狭窄(ものの見える範囲が狭い)や夜盲(夜などの暗い状態で極端に見えにくくなる)など、さまざまな症状を合わせ持っている人もいます。
弱視の人の見え方
では、弱視の人にとって、この世界はどのように映っているのでしょうか。この問いに答えるのは大変困難です。というのは、弱視の人の見え方は千差万別で個人差が激しく、また一人の弱視者をとってみても、天気や時刻、目の調子によって見え方が変化するためです。
そこで1つの例として、弱視である筆者自身の視力や見え方について少しお話します。
私の視力は右が0.01、左は40cm指数(40cm離れた所にある指の数がわかる程度)です。0.01以下の視力についてはあまり知られていないのですが、0.01と0の間には3つの視力があります。
- 指数弁
- 指の数がわかる程度
- 手動弁
- 手の動く方向までわかる程度
- 光覚弁
- 光の明暗まではわかる程度
次に私の見え方については、以下のような特徴があります。
- 像がぼやける
- 全体的に像がぼやけます。特に蛍光灯などの光るものについては、そのものの周りに余分な光が見えていて、輪郭がはっきりしません。
- 光の粒や小さな虫が無数に飛んでいるように見える
- あまり気になることはありませんが、無数の光の粒が飛んでいます。
- ものが2つ見える
- 私の場合、左眼の位置が少しずれているために、いつもものが2つ見えます。しかし、左眼の視力は右眼に比べてかなり低いので、混乱するようなことはありません。
- まぶしいのが苦手
- まぶしいと集中力が落ち、疲れやすくなります。晴れている日よりも、曇っている日のほうが私には都合がいいです。
パソコンやウェブをどのように使っているのか
弱視者のパソコン利用については、以下のような方法があります。場合によっては、これらの方法を組み合わせて使用している人もいます。前にも書いたように、弱視の人の見え方は千差万別ですので、利用環境もいろいろです。
画面拡大ソフトの利用
まず、パソコンの画面を拡大表示するソフトを利用する、という方法があります。画面拡大ソフトには、市販のもののほかに、Windows98以降「ユーザー補助」として標準搭載された「拡大鏡」というものもあります。[スタート]メニューから[プログラム]→[アクセサリ]→[ユーザー補助]→[拡大鏡]と選択すると起動することができます。
私は普段、ZoomTextという市販のソフトを使って、倍率を7倍にし、色を反転させた状態でパソコンを利用しています。
OSやブラウザの設定を変更して利用
OSやブラウザの設定を変更して、自分が一番見やすい状態で利用しているケースもあります。OSのほうでは、画面解像度を下げる、デスクトップの色や文字サイズを変更するなどの設定を行います。またブラウザ側では、文字サイズを変更する、制作者が指定した色やフォントを使用しないようにするなどの設定を行います。
音声読み上げソフトの利用
弱視者の中にも、音声読み上げソフトを利用している人がいます。また、ウェブサイトのテキストの量によって、画面拡大ソフトと音声読み上げソフトを使い分けている人もいます。
ウェブを使っていて困ること
さまざまな支援技術を用いてウェブを利用していても、コンテンツによっては困ることがあります。私の場合、次のようなコンテンツはとても見えにくいです。
- 画像化されたテキスト
- テキストが画像化されていると、文字サイズを拡大することができません。また、エクセルの表などを、キャプチャを撮って画像化したような場合には、画像が荒くなり、テキストの色も変わってしまうのでほとんど読めません。
- アニメーションや動くテキスト
- 画面拡大ソフトを使用していると、画面の一部しか表示されないのでアニメーションの全体を把握するのが大変です。また動く文字を追いかけるのは至難の業です。
最後に
さて今回は弱視について取り上げました。弱視についてはまだあまり知られておらず、初めて耳にするようなことも多かったかもしれませんが、「見えにくい」ということを少しでもお伝えできたでしょうか。
A.A.O.制作の際には、私も弱視の立場から意見を出し、試行錯誤しながら作業を進めました。なかでも、次のような点には注意を払いました。
- 文字サイズをユーザーが変更できるようにする
- テキストはなるべく画像化しない
- 背景色と文字色のコントラストをきちんととる
- 横スクロールを出さないようにする
ウェブのユーザーは本当に多種多様です。さまざまなユーザーの特性や利用環境を理解し、一人でも多くの人に「伝えたいことが伝わるウェブサイト」を目指して前進していただきたいと思います。