ウェブアクセシビリティJIS規格の改正に備える~公共機関ホームページに求められる対応
No.6 ガイドラインの作成
自団体が設定した目標を実現するために必要なルールを整備する
[ 月刊『広報』 平成22年6月号掲載 ]
執筆担当
大久保 翌
(おおくぼ あきら)
行政の広報担当者に役立つ実務記事などを中心とした行政広報専門誌、 月刊『広報』 にて、連載「ウェブアクセシビリティJIS規格の改正に備える~公共機関ホームページに求められる対応」を開始しました。
日本広報協会様のご好意により、転載させていただきます。
ウェブアクセシビリティのJIS規格「高齢者・障害者等配慮設計指針-情報通信における機器,ソフトウェア及びサービス- 第3部:ウェブコンテンツ(JIS X 8341-3 )」の改正が予定されています。
第6回は、改正後のJIS X 8341-3に対応するために、各団体が整備すべきガイドラインについて解説します。
アクセシビリティはホームページガイドラインに不可欠な要素
多くの公共機関では、ホームページに関する団体内の様々なルールを、ガイドラインと呼ばれる文書としてまとめています。
ひと口にガイドラインと言っても扱う内容は団体による差が大きいようです。例えば、「ページ作成等の業務の心構え」、「ページを作成し公開するまでの手順」、「ページの作り方や注意点」などを幅広く扱ったガイドラインを持つ団体もあれば、「掲載する記事を書く際の文章の書き方や言葉使い」に特化して注意すべき事をまとめたガイドラインを持つ団体もあります。
2004年のJIS X 8341-3制定以降は、ガイドラインにアクセシビリティ配慮の方針や具体的な対応方法を盛り込む団体が増えました。今では、アクセシビリティに関する記述が大部分を占めるというガイドラインが珍しくありません。アクセシビリティの配慮が、職員の方にとってなじみが薄く、配慮の重要性や具体的な対応方法を周知することが不可欠だからだと考えられます。
公共機関のガイドラインによくある問題とは
いろいろとご相談を受ける中で多くの団体のガイドラインを拝見してきましたが、うまく活用できているケースに出会うことは非常に少ないと言えます。府省、自治体、独立行政法人などのガイドラインによくある問題を列挙してみましょう。皆さんの団体で、思い当たる点が無いでしょうか。
(1)アクセシビリティに関する記述が無い/不足している
ガイドラインを持っているけれどもアクセシビリティに関する記述が無い、あるいは記述が不足している団体があります。このような例は、古くに作成されたガイドラインをそのまま使用している場合に多いと感じます。JIS X 8341-3の制定以前は、多くの団体においてアクセシビリティ配慮の必要性が認識されていませんでした。この当時に作られたガイドラインは総じてアクセシビリティに関する記述が不足しています。
(2)他団体のガイドラインを採用した/真似た
近隣の団体やホームページの評判がよい団体のガイドラインを入手して、ほぼそのまま自団体のルールとして採用したというケースがあります。この場合、「ガイドラインを持っている」という意味で体裁は整っているのですが、ページ作成や管理業務にルールが活かされていることはほとんどありません。ホームページの担当者の方が「自団体の方針を検討する」という手順を端折ってしまうと、コンテンツや運用の事情とガイドラインに記載されるルールとが合致しないのです。また、担当者の方にガイドラインに対する思い入れが無いために、熱意を持って団体内でルールを周知するということが行われないという傾向も見受けられます。
(3)職員が読んでいない
ガイドラインをほとんどの職員が読んだことがなく業務に活用されていないというケースは珍しくありません。団体によってそれぞれいろいろな背景があるのですが、ガイドラインの内容が難しすぎることは要因の一つです。ガイドラインの作成時に、対象読者として「ホームページに詳しくない職員の方」を想定していないと、このようなことが起きてしまいます。
(4)ガイドランの内容を更新していない
記述されている内容が古く、現在の利用者の閲覧環境やページ作成技術と合致していないガイドラインもあります。例えば、信じられないような話ですが、ページ作成時に最も重視する閲覧ソフトとしてNetscape Navigator 4.7を指定している団体がありました。
コンテンツ及び運用の方針を十分に検討し反映する
前号までの解説のとおり、改正後のJIS X 8341-3では、各団体においてアクセシビリティ対応の目標(達成等級・達成基準)を設定します。設定した目標を実現するために必要となるルールをガイドラインにまとめましょう。その際に、自団体ホームページのコンテンツ及び運用の方針を十分に検討するようにしてください。
職員を対象に分かりやすく解説する
ガイドラインを作成する際には、対象者の検討を十分に行うことも重要です。業者に読んでもらうものなのか、ホームページの運営を担当する職員が読むものなのか、ページを作成する個々の部署の職員の方が読むものなのかといった対象者の設定の仕方によって、ガイドラインに求められる内容や表現が異なるからです。
ホームページに詳しくない職員の方に必要な配慮を周知するためには、ページ作成の技術的なルールを示すこと以上に、その背景や重要性を理解するための分かりやすく丁寧に解説することが重要になります。
定期的に内容を確認し見直しを行う
JIS X 8341-3の改正のように、ホームページのルールに関わる大きな変化があった場合は、ガイドラインを必ず見直す必要があります。
また、利用者の閲覧環境やページ作成技術は変化し続けているため、その変化を踏まえた適切なルールとなるように定期的に見直すことが重要です。セミナーなどでは、1年に1度見直しを行うことをお勧めしています。
次回は、JIS X 8341-3の改正を踏まえたリニューアルを行うために、必要な対応について解説する予定です。