第10回「考えていたリニューアルの計画をゼロベースで見直しました」~長寿科学振興財団ウェブサイトのAA準拠を目指したリニューアル~(前編)
[ 2018年1月10日 ]
ゲスト
公益財団法人 長寿科学振興財団
事業推進課長 金子智隆さん
事業推進課 事業推進担当 山口貴利さん
公益財団法人長寿科学振興財団(以下、「財団」と記載)では、財団の事業等を紹介する「財団ウェブサイト」と、広く国民向けに健康や長寿に関わる情報を分かりやすく紹介する「健康長寿ネット」の2つのウェブサイトを運営しています。
財団では、両ウェブサイトについて、平成28年10月にリニューアル公開するとともに、ウェブアクセシビリティの試験を実施し、平成29年1月に結果を公表しました。
リニューアル及びCMS入替え導入に向けた準備、プロジェクトの進行過程で取り組まれた内容と、現在も継続しているウェブアクセシビリティ確保の取組についてご紹介いただきます。
1.「財団ウェブサイト」と「健康長寿ネット」について
財団ウェブサイト
アライド:今回のインタビュー記事の読者には、長寿科学振興財団という組織と健康長寿ネットについて、初めて名前を聞くという方もいらっしゃるかもしれません。初めに、財団の事業と、ウェブサイトでどのような情報発信をされているか、概要をお聞かせ下さい。
山口:主に老化のメカニズムの解明、高齢者特有の疾病の原因の解明、疾病予防・診断に関する研究、高齢者に関わる社会的問題・高齢者自身の心理的問題などについて、幅広く学際的に扱う「長寿科学」を振興するための財団として事業を行っています。
事業は3つあり、1つめは長寿科学に関わる研究者の支援を行う事業で、助成金等を通じて学際的な取組を支援しています。2つめは一般の国民の方を対象に研究成果を普及するための情報提供事業、3つめは老化のメカニズムの解明や高齢者特有の疾病の予防・診断等に関する研究を財団独自に行う研究事業です。
アライド:財団ウェブサイトと健康長寿ネットは、それぞれどのような目的で運営されているのでしょうか。
山口:3つの事業のうちの2つめの情報提供事業になります。財団ウェブサイトは、主に研究者に対し助成の公募や講演会をご案内したり、研究成果をまとめた刊行物を掲載するなどしています。一方の健康長寿ネットは、広く国民向けに長寿科学の研究成果を分かりやすく普及するための情報発信サイトとして運営しています。それぞれ対象者が異なることから、別のウェブサイトとして運営しています。
健康長寿ネット
アライド:どのような体制で運営されていますか。
山口:運営は4名体制で行っています。財団ウェブサイトに掲載する記事は職員が作成しています。健康長寿ネットの記事については、外部のライターが執筆し、その内容の正確性等について、長寿科学に関わる外部の先生方に監修をいただいています。
2.失敗するという危機感から、計画をゼロベースで見直し
アライド:両ウェブサイトについて、リニューアルを検討されたきっかけはどのようなことでしたか。
山口:平成18年に財団ウェブサイトと健康長寿ネットを開設し、当時は職員2名で運営していました。それぞれ更新頻度はそれほど多くなかったのですが、アクセス数は開設以降右肩上がりで伸びてきました。内容を分析してみると、アクセス数増にはスマートフォンでの利用の増加が大きく影響しているようで、スマートフォン対応が課題として挙がっていました。そのような中で、利用していたCMSのサポートが終了すること、サーバーの耐用年数の問題が顕在化したことをきっかけに、リニューアルの検討を始めました。
アライド:今回のリニューアルでは、業者選定に先立って事前準備を期間・工数をかけてしっかり行われました。そのような手順を採用した経緯を教えてください。
山口:リニューアルに向けて業者に見積もりを取ったところ、かなりの費用がかかることが分かりました。多額の費用をかけるのであれば、リニューアルを行うことでより良いウェブサイトにしたいと考えました。
そこで「より良い」という品質をどのように定義すべきか、いろいろと調べたのですが、その中でウェブアクセシビリティというキーワードに出会いました。初めて聞く言葉だったものですから、さらに調べていく過程で、総務省の「みんなの公共サイト運用モデル」を知り、アライド・ブレインズの存在も知りました。
アライド:お電話をいただいたのですよね。
山口:ウェブアクセシビリティという言葉や重要性について認識したものの、リニューアルを通じて実現する方法や手順についてイメージが湧かなかったため、アライド・ブレインズに連絡を入れ、大久保さんと電話でお話し、業界の動向、リニューアルに向けた事前準備やリニューアルプロジェクトの期間設定の重要性など、様々な話を聞いたことがきっかけでした。
アライド:その後、東京で開催するセミナーにお越しいただきました。
山口:より詳しい情報を得たいと考えて、案内をもらったセミナーに参加し、目次さんの講演を聴くことで事前準備の重要性をより強く認識しました。当初は、事前準備をそれほどせずに、すぐにリニューアルを実施するというイメージを持って検討を始めていたのですが、そのまま進めてしまったら間違いなく失敗を犯すぞという危機感を持ちました。自分達が考えていたリニューアルの計画をゼロベースで見直し、十分な期間を確保して必要な支援をいただき、しっかりと準備することに方針を変更しました。
3.事前準備で明らかになったウェブサイトの問題、利用者の実態
アライド:その後、実際にリニューアル事前準備に取り組まれたわけですが、特に重要だったとお感じになられているのは、どのような取組ですか。
山口:後から振り返ると、全ファイル解析、利用者アンケート、利用者グループインタビューの3つの取組は、それ以降の事前準備を推進していくうえで大前提となる重要なものでした。
アライド:取り組んでみて初めて気が付かれたことや、思っていたことと違ったという発見がありましたか。
山口:全ファイル解析を行うことで、当時の財団ウェブサイトと健康長寿ネットのディレクトリ構造の問題を初めて認識しました。また、見出し要素などの構造化のタグが全くつけられていないなど、ウェブアクセシビリティという観点で分析した時に、必要な対応が全くできていないということを認識することができました。
アライド:アンケート、インタビューではどのようなことが分かったのでしょうか。
山口:アンケート、インタビューは、両ウェブサイト開設以来初めて国民の声を聞く取組で、全てのことが初めてのことばかりだったのですが、特に衝撃を受けたのは、財団の認知度が著しく低いということでした。ある程度のアクセス数があったので、少しは知ってもらっているのではないかとイメージしていたのですが、殆どの方が知らないという回答でした。その反面、特に健康長寿ネットについては、掲載されている情報がとても有益だという評価をいただきました。情報発信の内容は間違っていなかったが、両ウェブサイトの構造の問題で、情報の発信主体が長寿科学振興財団であるということを認識しづらいという実態が初めて分かりました。