世界最強のスクリーンリーダーを目指して
[ 2005年8月8日 ]
執筆担当
伊敷 政英
(いしき まさひで)
去る7月27日、スクリーンリーダーJAWS for Windowsの最新版であるVersion6.2日本語版が、エクストラより発売されました。そこで今回は、東京品川にある品川インターシティで同日開催された製品の記者発表会の様子をレポートします。
自分達の道具は自分達で作る
今回のJAWS for Windows Version 6.2日本語版は、静岡県立大学教授の石川准氏をリーダーとするプロジェクトチームによって開発されました。開発チームのメンバーは石川氏を含めて5人。そのうち4人は全盲のプログラマー、あるいはパワーユーザーです。
JAWSをはじめとするスクリーンリーダーの開発には、多くの視覚障害者が関わってきていますが、そこには常に「自分達の道具は自分達で作る」というスピリットが流れています(石川氏 談)。
図1
最新版開発の基本コンセプト
最新版JAWSは、以下の5つの基本コンセプトに基づいて開発されました。
1.タイムラグのないリリース
JAWS日本語版は、米Freedom Scientific社が開発したJAWSを日本語化したものです。今回の開発では、英語版リリースからタイムラグをあけずに日本語版をリリースすることが重視されました。「日本語版の開発は4月からの3ヶ月で行なったので、最初からムチをビシビシ入れました」(石川氏 談)。
2.持続可能な開発
石川氏も発表会の中で指摘していますが、「スクリーンリーダーの開発は、膨大なつじつまあわせ」です。OSやアプリケーションのバージョンアップへの対応に追われます。このつじつまあわせには膨大な時間と労力、コストが必要となるため、開発自体の継続が困難になる場合もあります。
JAWSの場合、この困難を回避し、開発を継続して行なうために、開発作業に明確な優先順位を設定しました。そのため最新版では、ヘルプの一部の翻訳が省略されています。そしてそれに代わるものとして、全盲の開発者自身がソフトウェアの操作を説明したCD-ROM4枚が同梱されています。
3.OSやアプリケーションのバージョンアップに追随する
上記のコンセプトによって開発を継続しつつ、OSやアプリケーションのバージョンアップに可能な限りついていくことが大変重要です。
4.日本語版独自機能の追加でさらにパワーアップ
前にも述べましたが、JAWSは本来英語のソフトウェアのため、日本語の読み上げや点字表記に関する機能は、今回の開発で組み込まれました。特に日本語の読み上げや点字表記の正確さには徹底的にこだわって開発され、また多くの音声エンジン、点字ディスプレイに対応しています。
5.スクリプト言語により多くのアプリケーションに対応
JAWSに限らず、スクリーンリーダーは、一度開発してしまえば、すべてのソフトウェアを音声化できる、というものではありません。「読み上げ可能なソフト」と「読み上げ不可能なソフト」があるのです。例えばマイクロソフトのOutlookやOutlook Expressなどは、一般的には大変ポピュラーなソフトウェアですが、多くのスクリーンリーダーでは読み上げることができません。そのため、スクリーンリーダーにとっては「いかに多くのソフトウェア、またはよく利用されるソフトウェアに対応しているか」ということが重要なポイントになります。
JAWSはこの点について、とても強力な武器を持っています。それは「JAWSは独自のスクリプト機能を持っている」ということです。もともとは音声読み上げに対応していなかったソフトウェアでも、このスクリプト(小さなプログラム)を書くことによって、ユーザー側で音声読み上げ可能にすることができるのです。このためJAWSは多くのソフトウェアに対応することが可能となります。
最新版JAWSの特徴
最新版JAWSは、Internet Explorerを使ったWebサイトの読み上げにも強力に対応しています。主な特徴は以下のとおりです。
- ナビゲーションスキップ
- ウェブページの先頭に連続したリンクが置かれている場合、JAWSはこれをナビゲーションと判断し、本文へジャンプすることができます。
- 画像リンクへのカスタムラベル
- リンクが設定されている画像に対して代替テキストが指定されていない場合、または代替テキストが適切でない場合に、ユーザーがその画像に対して、代替テキストの代わりとなる「カスタムラベル」を設定することができます。
- 見出しフォームの拾い読み
- ウェブページの中の見出し(h1~h6要素)や入力フォームだけを拾い読みすることができます。
- PDF、Flash、JavaScriptへの対応
- 最新版JAWSは、Adobe Reader 7、Flash Player 7に対応しています。また、アクセシビリティに配慮したPDF文書やFlashコンテンツの読み上げにも対応しています。さらに、JavaScriptにも強力に対応しています。
- その他さまざまなインターネットツールへの対応
- Windows Media player、Real Player、MSNメッセンジャーなどに対応しています。
最後に
発表会の中で石川氏は、「アクセシビリティの実現は、ゴールのない駅伝のようなものです。今回のJAWSについて、3ヶ月という短期間で当事者中心の開発が行なえたのは、約3年前にVersion4.5をリリースした日本IBMの協力があったからです。IBMからたすきを受けて、今回Version6.2をリリースすることができました。」とおっしゃっていました。
今度は私たちが走る番です。「最新版JAWS」というたすきを受け取った今、一人でも多くの人に、「それぞれのゴール」へ向けて走り出して欲しいと思います。