総務省ウェブアクセシビリティセミナーレポート
[ 2006年4月14日 ]
執筆担当
伊敷 政英
(いしき まさひで)
桜の開花を心待ちにしていた3月9日、東京霞ヶ関で開催された総務省主催のウェブアクセシビリティセミナーに参加してきました。当日は、会場の総務省講堂を埋め尽くすほどの参加者がいることに驚きました。アクセシビリティに関心を持ち、取り組みを始めている自治体や企業が増えていることに、1人のユーザとして嬉しくなりました。
今回のコラムでは、セミナーに参加して筆者が感じたことなどを書いてみたいと思います。
Ask them first
これは、「ユーザと環境から学ぶアクセシビリティ」と題して、障害者や高齢者から実際に意見を聞くことの重要性について講演された梅垣正宏氏が、「公共分野におけるアクセシビリティの確保に関する研究会(総務省)」の委員の言葉として紹介したものです。講演の中で梅垣氏は、「ユニバーサルデザインの基本はAsk them first。多様なユーザがどう使っているかを理解したうえでデザインすべき」と説明していました。
筆者もアクセシビリティにかかわるようになって以来、ずっとこの考え方をセミナーなどで提案してきました。A.A.O.のコラムでも「 弱視にまつわるエトセトラ 」で筆者自身の障害やウェブ利用について紹介しています。
そんな中、今回のセミナーでは「これはもったいないなぁ」と感じたことがありました。プログラムの最後に行われたパネルディスカッションを聞かずに帰ってしまう方が多くいたことです。パネルディスカッションには、ユーザの代表として視覚障害を持つ方が参加され、普段ウェブを利用する上でどういった困難があるかなどについて述べておられました。
アクセシビリティに関するアンケートなどでも、「実際に障害者や高齢者から意見を聞く機会が少ない」という意見を目にします。普段なかなか聞くことができない、当事者の生の意見だからこそ、一人でも多くの方に聞いていただきたいと思いました。
「タスクを完了できることはとても重要なことです」
こちらは、パネルディスカッションの中で佐々木宗雅氏がおっしゃっていた言葉です。全盲の視覚障害を持っておられる佐々木氏はディスカッションの中で、東京都三鷹市のウェブサイトを例に、「情報がきちんと整理されていて音声で聞いても理解しやすいです。しかし、講習会かなにかのページだったと思いますが、申し込み方法が往復はがきだけになっていました。私は全盲ですのではがきに文字を書くことはできません。そのためこのホームページで情報を入手することはできても、実際に参加を申し込むことはできません。このように一連のタスクを完了できないと言うのはストレスが溜まりますね。ほかのホームページでもそうですが、あるところまでは音声でも情報取得できるけれど、そこから先にすすめないという経験を何度もしました。私たちにとって、タスクを完了できると言うことはとても重要なことです」とおっしゃっていました。
この言葉は、普段から問題意識を持ちながら日常生活を送っておられるからこそ出てきた言葉だと思います。筆者も佐々木氏と同じような経験をしたことがありますが、とてももどかしくてストレスが溜まります。
またこの言葉は新たな問題をも提起しています。佐々木氏の言葉を受けて、東京都三鷹市の広報担当の今野聡氏は、「ユーザの利便性を考慮すると電子メールやメールフォームなどで参加申し込みを受け付けるというのは自然な考え方なのですが、個人情報の取り扱いが大変難しいため、結果的にはがきなどの紙での受付にせざるを得ないというのが実情です。」とおっしゃっていました。
アクセシビリティの維持・向上に取り組む上で、セキュリティや個人情報保護などとどうバランスを取っていくかというのは大変重要な課題だと思います。
最後に
今回は3月に行われたアクセシビリティセミナーを、講演された方々の言葉をキーワードに振り返ってみました。セミナーで講演された方々のプロフィールを見ても、総務省の方、自治体の現場でアクセシビリティに取り組んでおられる方、最先端の研究をしておられる方、そして障害当事者と、大変バラエティに富んでいます。アクセシビリティの裾野が広がってきているなと実感します。
今後も、一人でも多くの方にアクセシビリティの必要性について理解していただき、誰もが使える優しいウェブサイトが増えていくように、さまざまな活動に取り組んでいきたいと思います。