第8回A.A.O.セミナー講師 特別コラム
No.2 利用状況調査に答えたのはどんな人たちか?(前半)
- 平成18年身体障害児・者実態調査と比べて -
[ 2008年6月5日 ]
寄稿
独立行政法人
国立特別支援教育総合研究所
主任研究員 渡辺哲也さん
(わたなべ てつや)
第8回A.A.O.セミナーでご講演をいただきます、独立行政法人 国立特別支援教育総合研究所の渡辺哲也氏よりご寄稿をいただきました。
渡辺氏は、視覚障害者への支援を目的とした音声や触覚についての研究をしています。
音声読み上げソフトの開発や、視覚障害者に漢字の読み方をどうやってわかりやすく伝えるかという研究など、視覚障害者のICT利用の根幹を支える活動をされています。
はじめに
昨年5月から6月にかけて、視覚障害者のパソコンやインターネット、携帯電話の利用状況を調査するためアンケートを実施しました。本稿では、アンケートに回答いただいた視覚障害者の年齢や職業などについてご紹介します。
パソコン・インターネット・携帯電話利用状況調査に答えて下さった413人の視覚障害の方々はどんな人たちだったのでしょうか。年齢は何歳くらいで,障害の程度はどれくらいで,どんな職業に就いているのでしょうか。最近公表された厚生労働省による実態調査などと比べながら紹介していきます。
年齢分布
パソコン・インターネット・携帯電話利用状況調査(以後,「ICT調査」とします)の回答者の年齢は,40代と50代を中心として,18歳~64歳の労働年齢にかたまっています。これに対して,平成18年身体障害児・者実態調査(以後,「厚労省調査」とします)における視覚障害者の年齢は,年代が高いほど人数が多くなっていき,70歳以上が半数を占めます(以上,図1)。このような調査回答者の年齢分布の違いが,点字使用率や就労率の違いに大きく影響していきます。
図1 調査回答者の年齢分布(ICT調査は412人,厚労省調査は314.9千人(推定値))【図1の説明】
障害の程度
身体障害者福祉法では,視覚障害の程度を,視力と視野によって1級から6級までに分類しています。6級が障害の程度が最も軽く,1級が最も重いとされます。この等級により,税や公共料金等の減免,受給できる公的年金,受けられる福祉サービスなどが変わります。
図2の棒グラフに示すように,ICT調査では,障害等級1級の人が圧倒的に多く7割を占めました。次に多かったのは2級の人たちです。厚労省調査でも1級,2級の順で人数が多い点は同じですが,1級の割合はICT調査の半分程度です。その分,3級から4級の人の割合が高くなっています。
図2 調査回答者の障害等級の分布(ICT調査は412人,厚労省調査は314.9千人(推定値))【図2の説明】
使用文字
ICT調査では,視覚を使って文字の読み書きができるかどうかを尋ねました。すると,視覚を使って文字の読み書きができないと答えた人の割合は1級では9割に上りました。この割合は,障害の程度が軽くなるほど下がり,視覚を使って文字の読み書きができる人が増えていきました(図3)。一方,厚労省調査では,点字を使えるかどうかを調べました。すると,点字ができる人の割合は1級で25.2%, 2級で13.0%となり,3級から6級では点字ができる人はほとんどいませんでした(図4)。
目で文字の読み書きができなければ点字を習うものと自動的に考えてしまいます。ところが,両調査のグラフを比べると,点字ができる人は,視覚を使って文字を読み書きできない人よりぐっと少ないことが分かります。これは,厚労省調査における回答者の7割が60歳以上であり,この人たちの点字使用率が60歳未満の人たちより低いためです(平成13年の厚労省調査から調べました)。
一般の文字と点字の両方とも使わない人は音声情報に頼っていると考えられます。実際,厚労省調査では,視覚障害者の情報入手の手法として,約半数以上の方がテレビ,家族・友人,ラジオを挙げています。今や点字図書館でも,点字図書よりも録音図書の方が貸し出しタイトル数が多くなっています。
図3 障害等級別に見た視覚的な文字の読み書きの可否の割合(「できない」人の割合)【図3の説明】
図4 障害等級別に見た点字利用,及び必要性の状況【図4の説明】