失敗しないCMS導入の秘訣 ~こんな導入方法では失敗する~
[ 2008年12月12日 ]
執筆担当
目次 徹也
(めつぎ てつや)
公共機関のウェブサイトは、新たにCMS導入をするところ、CMSの入替え(リプレース)をするところを併せると、毎年数十のウェブサイトがCMSの新規導入、再導入の作業を行っています。しかし、本当にCMS導入はうまくいっているのでしょうか。
CMS導入の実態
「CMSを導入すると何が良くなりますか」、「CMSを導入、あるいは導入検討する場合に、まず何から始めますか」といった重要な問い掛けに対する答えが明確になっていないままCMS導入業者を選定してしまう例は、枚挙にいとまがありません。そして、このような状況でCMSを導入した場合、まず間違いなく失敗してしまいます。
ところで、CMS導入の失敗とは、どういう事を言うのでしょうか。最も深刻なのは、導入前より使いにくいウェブサイトになってしまうケースです。そして、最もよくあるのは、トップページおよび2階層目、3階層目あたりまではとても使いやすくなったものの、それより深い階層のページが導入以前と同じままか、中途半端に改善されているケースです。ユーザーが必要としている情報は、階層の途中にあるメニューページではなく必要な情報そのものが掲載されている末端のページなのですが。
また、最も導入目的が不明なのは、CMSを導入したにも係わらず、そのCMSの機能を部分的にしか使っていないケースです。CMS導入後に作成されたページとCMS導入以前に作成されたページが全く異なるデザイン、品質となっているウェブサイトも決してまれではありません。
どうしてCMS導入を失敗してしまうのか
「CMS導入の実態」でご説明したように、CMSを導入するにあたって事前に決めておかなければならないことがおろそかになっているために、要求仕様として提示する内容が不足している、あるいは不明瞭であるといったことが起こります。そして、この要求仕様の不備がCMS導入失敗の根本的な原因に他なりません。数々の失敗事例を調べてみると、そのほとんどに要求仕様の不備が確認されます。
要求仕様を作成するために何をすれば良いのか
CMS導入プロジェクト 作業項目一覧
- Step1
- a.方針確認
- b.方針の周知徹底
- Step2
- c.基準・ガイドラインの確認
- d.現状の問題点・課題の確認
- e.ワークフロー確認
- f.職員の意識改革
- Step3
- g.事例調査
- h.追加機能洗い出し
- i.新ワークフロー作成
- j.サイト構造設計、トップページデザイン方針作成
- サイト構造設計(情報分類)
- トップページデザイン方針
- k.第1次仕様書案(導入、移行、運用についての検討)
- l.CMS調査
- m.CMSでの実現機能確認
- n.CMS業者ヒアリング
- o.CMS比較表作成
- p.仕様書作成
- Step4
- q.提案コンペ
- 審査基準作成
- 審査
- r.導入作業・移行作業
- 導入作業・移行作業計画書作成
- 導入作業
- 移行作業
- s.ガイドライン・マニュアル整備
- ガイドライン整備
- コンテンツ作成マニュアル整備・CMSマニュアル整備
- t.職員研修
- CMS研修
- アクセシビリティ研修
- u.検収
- v.運用
- q.提案コンペ
まず、ウェブサイトの目的を確認した上で、何のためにCMSを導入するのかということを明確にします。そして、関係者全員(全職員)に対し周知徹底をはかることが重要となります。これについては、CMS導入の事前検討時からCMSを導入し、リニューアルが完了するまで繰り返し確認することが大切です。[STEP1]
次に、現ウェブサイトの品質、使いやすさ、利用状況、運営状況を詳細に把握し、問題点や課題を明確にします。[STEP2]
その次に、要求仕様を作成していきます。ここで重要なことは、何か特定のCMSプロダクトを想定して作業を進めないことです。CMSは、あくまでもツールでしかありません。現在様々な公共機関で使用されているCMSの機能を前提にして考えるのではなく、あくまでも、自団体のウェブサイトにとって必要な機能を明確にしていくことが大切です。従って、CMS業者と会って話を聞くのは、ある程度の機能要件が整理された後にすることをお奨めします。
また、ウェブサイトにとってその屋台骨ともいえる重要な要素となるものが、情報分類とそれに基づくサイト構造設計になります。これを出来る限り要求仕様としてまとめておくことをお奨めします。但し、これについて仕様書にそのまま記述するかどうかは、良く検討する必要があります。大切なことは、CMS業者に情報分類とサイト構造設計を委託する場合であっても、それらの実施作業を評価し検収するのは、自団体の作業となるということです。他にも仕様書作成段階で実施しなければならない事が数多くありますが、仕様書作成の際に重要なのは、その仕様書を読んだ提案者が、どのような提案を提示してくるか、ある程度想定しながら作業を進めることです。[STEP3]
特に注意して記載しておくべきこと
要求仕様として記載しておくべき項目の中で意外とおろそかになってしまいがちなのが、移行作業に関することと、検収基準および検収方法です。数千ページあるいは数万ページのウェブサイトをより使いやすいウェブサイトにする目的を持って移行作業をすることは、CMS導入作業の成否に最も大きく係わることです。
この移行作業については、業者に委託する場合、自団体職員が実施する場合、あるいは共同で実施する場合のいずれの場合であっても移行計画を詳細に設計し、移行作業基準を明確にした移行作業マニュアルが必要です。移行作業を単なるコピー&ペースト作業と考えてしまっては、ウェブサイトは以前より使いやすいものになりません。しかし、このコピー&ペーストで移行作業を終わらせてしまっている例は、非常に多いのが実情です。
コピー&ペーストで移行作業が終わってしまっているケースをみると、移行計画、移行設計、移行基準、移行マニュアルのどれについても作成されていないか、或は内容が不十分です。そして検収基準、検収方法も明確になっていません。検収基準、検収方法を明確にしておかなければ、結果として様々な問題や課題を見過ごしてしまうことになります。ウェブサイト全体の問題をまとめて改善する最も良い機会がウェブサイトリニューアルの移行作業にあることを確認して下さい。
さいごに
今回ご説明したことは、初めてCMSを導入しようと考えている方、CMSの入替えを考えている方へ、より使いやすいウェブサイトを構築し、運営するために便利なCMSというツールを導入するために必要なことのほんの一部をご紹介したに過ぎません。CMS導入あるいは入替えをご検討される際には、出来る限り事前の準備期間を十分にとって要求仕様を詳細に策定されることをお奨めします。少なくとも6ヶ月、可能であればおよそ1年を導入事前検討期間としてご検討されることをお奨めします。そして、その仕様書を事前検討時、CMS導入作業時に何度も読み返し確認されることをご提案致します。