わたしとWebとパソコンと
No.3 次第に見えなくなる生活の中で(後編)
[ 2008年6月2日 ]
インタビュアー
岩渕正樹さん
(いわぶち まさき)
岡野五恵さん
(おかの いつえ)
前回に続いて、岡野五恵さんのインタビューを紹介します。(前回のインタビューを読む)
見えるうちに慣れておこうと
岩渕:初めて坂戸パソボラの「視覚障害者のためのパソコン体験講座」に参加した当時は、勤め先の会社でパソコンを使っていたとのことでしたが、自宅ではどうでしたか?
岡野:主人がたまに持ち帰ってましたが、私は使ってなかったですね。
岩渕:使っていなかったパソコンを使いたいと思うようになった気持ちの中には、パソコンを使うことで何かが変わるかもしれないという期待があったのでしょうか?
岡野:ありましたね。なんせ普通の画面だとまぶしくて使えなかったのですが、「視覚障害者のためのパソコン体験講座」があることを市の広報で知って参加してみたら、自分の目にあった設定ができると教えてもらいましたので。必要に迫られていたわけではなかったけど、使えるならまだ見えるうちに慣れておこうと思って、パソコンを購入しました。
岩渕:まだ見えるうちにパソコンに慣れておこうと「パソコン体験講座」に参加する人は、岡野さんに限らずけっこういます。
岡野:でも、機械への苦手意識が強くて、仕事もしていたし、購入しても2年くらいほったらかしで、相変わらず箱の中でした (笑)
初めて講座に出た翌々年くらいにまた講座に参加して、そのとき「パソコンあるんですけど」と言って、設定をしてもらいました。
知らないと聞けない
岩渕:岡野さんは色々なホームページを見ることができるようになったわけですが、普段どのようなウェブサイトを利用していますか?
岡野:普段は、これは何?とわからないことがあるとインターネットで調べていますね。旅館とかホテルとか、旅行に関することもけっこう多いです。旅行先で調べたいことがあっても自分の目で確認することができないので、とりあえずどこで乗り換えるかとか調べます。道を聞くにしても「どこに行くにはどう行けばいいですか?」と聞けますし。聞き方が具体的じゃないと、聞かれたほうも困るみたいです。東京の人って、わりと知らないんです。
岩渕:東京でなくても、そうですね (笑)
岡野:自分が“聞くための情報”を知らないと聞けないことがわかりました。
それと、「楽天市場」のメールがくるので面白そうだと思うんですが、これ欲しいと思ってもたどりつけないんです。買いすぎないので、それでいいのかもしれないけど (笑)
ゴミ箱行きも確かめてから
岩渕:本棚の辞書やガイドブックではなくインターネットで調べるのは、本だと見えないからですよね?
岡野:はい、そうです。本だけではなく、一人でお店まで行き着くことはできても自分が買いたいものを探すことができなくて。人に頼むと好きなものでなくても、つい好きだと言ってしまうじゃないですか。自分で納得して買い物ができるようになったら良いなと思っています。
岩渕:パソコンが使えるようになったことで、また、ウェブを利用できるようになったことで、趣味や夢、生きがいや生活の変化はいかがでしょうか。今までできなかったことができるようになった、あるいは、以前していたことがまたできるようになったということはあるでしょうか?
岡野:趣味では変わりがないですが、スキャナーとOCR(Optical Character Reader:光学式文字読取装置)を導入してからは何が書いてあるか確認できるようになりました。
岩渕:ということは、パソコンを使えるようになる前やホームページを見ることができるようになる前はどうだったのでしょうか?
岡野:子どもが学校からプリントとかもらっても自分では読めないので、主人に確認してもらっていましたが、新聞のチラシとかもらった小冊子とかも、前はそのままゴミ箱行きでした。今では何が書いてあるか確かめてから捨てるようにしています。主人が忙しいとなかなか見てもらえないこともありましたが、自分で確かめられるのが良いですね。
岩渕:パソコンを使い出したことで、ウェブを利用し出したことで、予想外だったことはありましたか?
ATMが使えないので
岡野:見えなくなってきたことで銀行のATMが使えなくなり、去年の秋くらいから自分の口座のある銀行に視覚障害者が使えるよう要望を出していたんですが、「じゃ、それは点字ですか?」と弱視の人の目の状態をわかってもらえなかったんです。高齢者の人も今のようなATMだと使いづらいのに、意見として聞いておきますねで話が終わりました。
春にもう一度聞いたときには、ちょっと進んで、「どういうのが良いですか? やっぱり点字ですか?」と言われて (笑)。それからまた半年たって、たまたま昨日、メーリングリストで「セブン銀行のATMが全部視覚障害者に対応したものになる」とあったので、半年ぶりにまた銀行に電話をかけたんです。
岩渕:すると!
岡野:そうしたら、「世の中はそういう風潮になってますから、そろそろウチも窓口のある店舗に1台くらいずつ入れるようになってきました」と言われたので、「人がいないところのほうが肝心なんですよ」と言ったところ、「一気にはいかないが、無人のATMにも入れることを検討します」との答えでした。坂戸の駅前にも早く入るといいですが、その前に私のほうがインターネット銀行を使えるようになっているかもしれませんね (笑)
岩渕:「坂戸の駅前」というと「宝くじ」の?
岡野:はい、「宝くじ」の銀行です (笑)
岩渕:インターネット銀行が使えるようになったとして、全部インターネットで済むようになって、現金を使うことがなくなるのでしょうか?
岡野:なくなりませんね。新聞代とかタクシーとか現金の出し入れはありますので、やっぱり早く坂戸の駅前が視覚障害者に対応したATMになってほしいです。
普通の字が見えなくなってからは広報を読むのは諦めていたんですが、「パソコン体験講座」の中で「声の広報」があるのを知って、利用するようになりました。これって、直接「予想外」ではありませんが、私にとっては「声の広報」があるなんて予想外でした (笑)