ウェブアクセシビリティ向上への道 - だれもが使えるサイトを目指して -
No.07総務省「みんなの公共サイト運用モデル」を発表
[ 月刊『広報』 平成18年2月号掲載 ]
執筆担当
大久保 翌
(おおくぼ あきら)
行政の広報担当者に役立つ実務記事などを中心とした行政広報専門誌、 月刊『広報』 で連載している「ウェブアクセシビリティ向上への道 – だれもが使えるサイトを目指して -」の記事を、日本広報協会様のご好意により、転載させていただきます。
平成17年12月15日、総務省から、ウェブアクセシビリティの推進を求める「みんなの公共サイト運用モデル」 (注1) が発表され、同時に全国の自治体へ資料一式が配布されました。今号では、ウェブアクセシビリティ配慮の取り組みに関して、ひとつの理想像を示したこのモデルについて解説します。
JIS X 8341-3への対応を実践するモデル
平成16年6月20日に制定されたウェブアクセシビリティのJIS規格(日本工業規格)JIS X 8341-3は、自治体などのホームページに大きな影響を与えています。これを機にウェブアクセシビリティを初めて知った自治体の担当者や業者が多かったようです。そして、ガイドラインを作ったり、研修会を開催したり、業者に配慮を求めるようになったりと、具体的な取り組みも少しずつ広がりつつあります。
このような効果と同時に、JIS規格の制定は、自治体や制作を担当する業者にとって悩みにもなりました。多くの人が、JIS規格が目指すような配慮のあるホームページ作りをするために、具体的にどのような手順で何を行えばよいのか分からなかったのです。
そのような状況の打開策として総務省から提示されたのが、「みんなの公共サイト運用モデル」です。JIS規格の6章に示された「ホームページ提供プロセス全体を通じた配慮の実践」の思想を引き継ぎ、その具体的な取り組み手順が示されました。自治体などホームページ提供者にとっては、このモデルに沿って取り組みを積み重ねていくことが、JIS X 8341-3への対応を実践することにつながります。
継続的な取り組みの全体像を示す
このモデルの最大の特徴は、継続的に行われるべき配慮の取り組みの全体像が示されたことです。ホームページは、日々更新され新しい情報が発信されます。そして、特に中規模以上のサイトでは、その原稿を用意しページを作成し公開する過程で、非常に多くの人が携わっています。このような背景から、ホームページ全体で常にアクセシビリティの配慮がなされるためには、一過性の対応ではなく、運用の過程で継続的な取り組みを積み重ねることがきわめて重要になります。
同モデルでは、マネジメントサイクルとして広く用いられている「PDCA」サイクル (注2) に基づき、行うべき取り組みが示されました。モデルに従って、目標を達成するための計画を用意(PLAN)し、配慮の取り組みを実行(DO)し、その成果を様々な観点から評価(CHECK)し、必要に応じて計画や体制を見直す(ACTION)。このサイクルを継続することにより、ウェブアクセシビリティの確保・維持・向上を目指すことが求められています。
提供者、利用者、制作業者がそれぞれの立場で参加
このモデルのPDCAサイクルは、ホームページ提供者である自治体などが参照し、取り組むことが想定されていますが、その実践においては、ホームページの利用者、制作の委託を受ける業者の参加が求められています。
ウェブアクセシビリティは、利用者とコンテンツとの関係の問題ですので、利用者の声を取り組みに反映することは、本来何よりも重要なことです。しかし、制作の要件を示したJIS規格の5章だけが注目される中で、利用者の声を得ることの大切さは、多くの現場で重要視されることがありませんでした。
同モデルでは、継続的な取り組みの中に「利用者による評価」を積極的に取り入れ、提供者が利用者に対する理解を深め、その声をホームページ制作・運用に取り入れることを強く求めています。これまで、そのような発想がなかった現場では様々な試行錯誤を伴うかもしれません。しかし、その重要性と多大な効果は、モデルの検討過程で実施された自治体での実証評価でも確かめられています。
また、ウェブアクセシビリティの実現には、適切な制作技術が欠かせません。その意味で、制作の委託を受ける業者も必要な情報を理解し、発注者のリクエストに適切に応える必要があります。モデルでは、制作が委託される場合も想定し、発注者と業者が協働で取り組む手順を示しています。
ウェブアクセシビリティに真正面から取り組む自治体/公的機関/民間企業へ
アクセシビリティへの配慮は、制作の細かなテクニックの問題としてとらえられていることが多いと思います。しかし、それだけでは、一面的な理解でしかありません。
知りたい情報にアクセスしてくる利用者に対して、情報が取れないということが起きないようにしようという配慮は、情報提供者の利用者に対する根本的な姿勢の問題であると思います。ホームページ全体で常にアクセシビリティの配慮がなされるためには、提供する組織の体制づくり、運用の手順の改善、利用者の声のフィードバックなど、制作テクニックとは違う次元の取り組みも地道になされることが不可欠なのです。このような理解のうえで、ウェブアクセシビリティに本当の意味できちんと取り組もうとする場合に、「みんなの公共サイト運用モデル」は大いに役立つことでしょう。
このモデルは、メインターゲットである自治体はもちろんのこと、そのほかの団体や民間企業でも参考になる内容になっています。すべてをいっぺんにと考えると大変ですが、「取り入れられる事柄から順々に」という姿勢でよいので、ぜひ活用してください。
このモデルにはもうひとつの特徴があります。個別の取り組みを支援するワークシート群が用意されたことです。これについては、次号でご紹介しましょう。
- 注1 みんなの公共サイト運用モデル
- 平成16年11月17日から開催された「公共分野におけるアクセシビリティの確保に関する研究会」の検討成果として、17年12月15日に総務省が発表。アライド・ブレインズでは、総務省の委託を受けこのモデルの検討を支援してきた。
- 注2 PDCAサイクル
- 計画、実行、評価、改善のプロセスを継続的に実施し、品質の維持・向上などを推進するマネジメント手法。ISOなどにも取り入れられ、製造品質の向上や業務改善などに幅広く用いられている。