その「別ページ」は配慮につながっていますか?
執筆担当
伊敷 政英
(いしき まさひで)
情報量の多いウェブサイトや、Flash等の最新技術を用いたウェブサイトを見ていると、音声読み上げソフトのユーザーへの配慮として、メインのページとは別にテキスト中心の別のページが用意されていることがしばしばあります。この「テキスト中心の別のページ」には「テキスト版」や「音声読み上げ対応版」等の名前が付けられていますが、ここではこれを「 別ページ 」という言葉でひとくくりにして考えてみたいと思います。
さて、この「別ページ」、本当に配慮につながっているのでしょうか?
そこで今回は、コラムA.A.O.の第一弾として、「別ページによるアクセシビリティの確保」について考えます。
別ページの使い方あれこれ
まず初めに、自治体や企業のウェブサイトで別ページがどのように使われているかを見てみましょう。まずウェブサイト全体に対して別ページを用意するという使い方があります。例えば 横須賀市や、 山形県のウェブサイトでこのような使い方をされています。
また、トップページなどウェブサイトの一部に対してのみ別ページを用意する、という使い方もあります。この場合、別ページに用意されたリンクのリンク先は元のページの該当するコンテンツになります。 千葉県や NEC、 New York Timesなどでこの使い方がされており、最も一般的な使い方のようです。
さらに、視点を少し変えてみると、モバイル向けのページと音声読み上げソフト向けの別ページを併用しているケースがあります。 NTTドコモや NHK、 フジテレビホームページ等がその例です。
ガイドラインではどうなっているか
次にWeb技術の総本山である W3Cの意見を聞いてみましょう。アクセシブルなウェブサイトが満たすべき要件をまとめた WCAG1.0(Web Content Accessibility Guidelines 1.0)では、別ページについて以下のように記述されています。
もし、最大限に努力してもアクセシブルなページを作れなかった場合、W3Cのテクノロジーを利用したアクセシブルな、しかも同等の情報(役割)を持つ別のページを作成してそこへリンクする。そして、そのページはアクセシブルではないページ(元のページ)と同じ頻度で更新するようにする。[優先度1] (WCAG1.0 チェックポイント11.4より)
WCAG1.0で言われていることは以下の4つです。
- 別ページは、どうしてもアクセシブルなページを作れないときにのみ用意すること
- 別ページはそれ自身が十分にアクセシブルであること
- 別ページは、元のページと同じ内容を含んでいること(情報の網羅性)
- 別ページは、元のページと同じ頻度で更新すること(情報の同期)
このうち、最後の2つは見落とされがちですがとても重要なポイントです。「別ページを用意するだけでは不十分で、その後のメンテナンスが重要」ということです。
情報の「網羅性」と「同期」
さて、上の4つの注意事項のうち、3.と4.を実現できるかどうかは、別ページの使い方にも大きく影響を受けるのではないでしょうか。
そこで、最初に紹介した「別ページの使い方」のそれぞれについて、「情報の網羅性」と「情報の同期」という2つの視点で考えてみたいと思います。
まず「ウェブサイト全体について別ページを用意する」という場合。これは内容が同じウェブサイトを2つ用意するようなもので、作成後のメンテナンスの手間が1.5倍ぐらいに膨れ上がってしまいます。すると多くの場合、別ページはだんだん更新されなくなり、元のページとの間で内容にずれが生じてきます。こうなってしまった時点で、この別ページは「代替」としての役割を果たさなくなってしまいます。情報を網羅することも、また同期を取ることもとても難しそうです。
次に「トップページなど、ウェブサイトの一部に対してのみ別ページを用意する」という場合。例えばトップページに対してのみ別ページを用意するとします。このとき、別ページに対しての更新作業は、最新情報や更新履歴に情報を追加し、新しいコンテンツへのリンクをはる、というようなものになります。別ページの作り方によっては、大規模なリニューアルの時以外は、更新は必要ないかもしれません。上の場合と比べるとこれは、作成後のメンテナンスの手間も多くなく、「情報の網羅性」「情報の同期」ともに実現できそうです。
最後に「モバイル向けのページと音声読み上げソフト向けのページを併用する」場合。モバイル向けのページでは多くの場合、「元のページの情報を網羅する」ということが前提としてあまり考えられていません。そのためこのようなページへ音声読み上げソフトのユーザーを誘導してしまうと、すべての情報が伝わらなくなる可能性があります。
最後に
このように別ページによってアクセシビリティを確保するためには、情報を網羅することと情報の同期をとることがとても重要です。そしてこの2つを実現するためには、「どうしてもアクセシブルにできない場合にのみ別ページを用意するようにし、できる限り元のページをアクセシブルにする。」という手法が最も現実的のようです。
アクセシビリティへの関心や重要性はますます高まってきていますが、「アクセシビリティを確保するには別ページを用意すればいい」という考え方に即座に行き着いてしまうのではなく、元のページをアクセシブルにできないかどうか、十分に検討してみることが重要なのではないでしょうか。