レポート 公共サイト運営の最前線
第3回「市民の声を活かしたサイト運営 ~名古屋市公式ウェブサイトの取組み~(前編)」
[ 2009年5月25日 ]
ゲスト
名古屋市市民経済局地域振興部
市政情報課 情報提供係
主事 桑原 慎治さん
主事 坂崎 光恭さん
名古屋市では、公式ウェブサイトにおいて「つかいやすい、やさしい、あんしんできる、べんりな」サービスを実現することを目指し、平成17年度にCMSを導入した全面リニューアルを行いました。
リニューアル公開後も、各ページに設置した「フィードバック機能」から寄せられる市民の声をサイト改善に活かすなど、アクセシビリティ、ユーザビリティの維持・向上に取組み続けているそうです。その取組みの成果は、アライド・ブレインズが平成18年から実施している自治体サイト全ページクオリティ実態調査の結果にも現れており、名古屋市公式ウェブサイトは3年連続「Aレベル」を獲得しています。
名古屋市ではウェブサイトの品質をどのように維持・向上し続けているのか、市民の声をどのようにサイト改善に活かしているのかについて、市政情報課の桑原さん、坂崎さんにお話をうかがいました。
リニューアル、CMS導入の経緯
アライド:平成17年度のウェブサイトリニューアル及びCMS導入の経緯をおうかがいできますか。
坂崎:リニューアル以前、名古屋市役所では各課が用意した紙やWord、Excelファイルなどの原稿を、市政情報課ですべてHTML化していました。そのため、更新が追いつかない、手作業で確認していたのでリンク切れなど不具合が発生する、アクセシビリティやユーザビリティ対応が不十分といった問題がありました。また、各課が独自に作成したサブサイトが約80サイト乱立しているという問題もありました。これらを解消するために、CMSを導入して大幅なリニューアルを行うこととし、その検討を平成15年4月から開始しました。
アライド:リニューアルはどのような方針で行われましたか?
坂崎:リニューアルによって、つかいやすい(ユーザビリティの向上)、やさしい(アクセシビリティの向上)、あんしんできる(災害時対応)、べんりな(電子申請)サービスの実現を目指すという4つの方針がありました。
それらはリニューアルによってほぼ実現できたと思っています。特にユーザビリティ、アクセシビリティは大幅に改善されました。あんしんできるサービスについてはサーバが負荷分散するようになったという意味で実現できていますし、べんりなサービスについては電子申請や申請書ダウンロードのボタンが全ページ共通のヘッダーに出るようになっています。
アライド:名古屋市公式ウェブサイトには、「暮らしの情報」「観光情報」「事業向け情報」「名古屋市政」という4つの大分類がありますが、このような情報の分類の仕方については、どのように検討されましたか?
坂崎:情報の分類方法やサイトの構造設計については、評価の高い民間サイトが「お客様向け」「法人向け」「会社概要」と分類しているのを参考にするなどして、職員が主体的に検討を行いました。
アライド:CMSを導入して、運用方法はどのように変わりましたか?
坂崎:紙やWord、Excelファイルで作った原稿を市政情報課でHTML化していたのが、各課でCMSを使って原稿を作成して市政情報課に公開を申請し、市政情報課が審査して問題がなければ公開するように運用が変わりました。各課でCMSの使い方を覚えなければいけないため、導入当初は一部の職員からの反発がありました。しかし、Wordファイルなどで作成しようが、CMSの中で作成しようが、職員が作成する原稿の内容自体が変わるわけではないという説明をし、理解を得るようにしていきました。
また、市政情報課は、以前はウェブサイトの更新作業に追われてコンテンツの充実や改善まで手が回らなかったのですが、運用方法が変わったことによって、サイト全体の運営に注力できるようになりました。
アライド:その他、リニューアルを機に実施された事はありますか?
坂崎:全ページに「役に立ったか」「情報は見つけやすかったか」という5段階評価とコメント欄を設けた「フィードバック機能」をつけました。また、80程度乱立していたサブサイトは半分程度公式ウェブサイトの中に統合しました。アクセシビリティに配慮してページを作成するためのガイドラインを作成し、CMSの管理外となった残ったサブサイトについてもガイドラインに則るという運用にしました。
公開前の厳しい審査によりウェブサイトの品質を確保
アライド:ウェブサイトの品質を維持・向上し続けるために、どのような取組みをされていますか?
坂崎:名古屋市では、各課が作成したページを市政情報課で一つ一つかなり丁寧に審査し、問題ないものだけを公開しています。例えばアクセシビリティやユーザビリティ上の基準を満たしているかなど、CMSで自動的にチェックできない事柄を審査で補っていきます。具体的には、文章表現が適切か(日付の表示が4/5(水)ではなく4月5日 水曜日など)、体裁を整えるために1つの単語の中にスペースが入っていないかなどです。その他、PDFなどHTML以外のファイルにリンクを張る場合、音声読み上げソフトの利用者がリンク部分だけを読んでもPDFであることが分かるように、リンク部分にもPDFと記載しているかをチェックします。また、CMSの使い方が難しい部分もあるので、CMSの使い方が適切かもチェックします。
アライド:CMSが自動的にできない部分を人がチェックするという運用の仕組みによって、クオリティを保っているということですね。チェックする際の基準はありますか?
坂崎:コンテンツ作成・掲載の基準を設けています。そして、その基準を一つ一つ説明するためのFAQを用意し、各課からイントラネットで見られるようにしています。FAQでは、例えば「本文エリアでは、画像はGIFかJPEG形式のものを使って下さい」と具体的な説明をしています。
アライド:FAQが各課で参照できるようになっていても、市政情報課さんの審査が必要と思われますか?
坂崎:項目が多いため、職員の自主性に任せるだけでは、基準に従ってページを作成することは浸透しないと思います。過去には、例えばPDFファイルを掲載する際に、ファイルサイズが大きすぎるものや、そもそも全部画像化してあるなど、配慮のないままで市政情報課に申請してくる例が数多く見受けられました。そういったものは全て申請してきた課に戻しました。審査をして問題があるものは繰り返し各課に戻していくことによって、今では職員にだいぶ基準が浸透してきたので配慮のない例は少なくなりました。もし審査せずに各課から何でも掲載できてしまえば、画像化されたPDFファイルなどがどんどん掲載されてしまっていたでしょう。
アライド:全部市政情報課さんでチェックしていると、「どうせチェックしてくれるのだから、適当にページを作ればいいか」というようにはなりませんか。
坂崎:審査で間違いが見つかるとコメントをつけて作成した課に戻すだけで、市政情報課では修正は行っていません。そして、名古屋市公式ウェブサイトとしての基準を満たすまで、何度でも繰り返し戻します。結構厳しく、相当手間をかけて審査しています。
アライド:まずコンテンツ作成・掲載の基準を作り、かつ一つ一つの基準を説明するためのFAQを用意し、それを日常的に守ってもらうために間違いを繰り返し指摘することが大事だということですね。そうすることによって、時間をかけて浸透させていったのですね。
坂崎:職員全体の理解やスキルが徐々に向上してきたようで、異動で課のウェブサイト担当者が代わったとしても、リニューアル当初に比べると「こんな初歩的な問題で」という内容で差し戻すことは少なくなってきています。