滋賀県、県内市町アクセシビリティ診断に基づく研修会レポート
滋賀県内の自治体、企業、経済団体などが設立した 「滋賀県高度情報化推進会議」 が、滋賀県および県内33市町のWebサイトのアクセシビリティ診断を行い、この結果をもとに、2月23日に自治体を対象とした講習会「自治体のためのWebアクセシビリティ実践講座」を実施しました。
アライド・ブレインズ株式会社では、この取組みの「Webアクセシビリティ診断」、「診断結果に基づく研修会の講師」を担当しました。
本取り組みを企画し担当された滋賀県高度情報化推進会議事務局(滋賀県県民文化生活部IT推進課)の小林潤子さんに研修後記を寄稿いただきました。診断と研修会講師を担当したアライド・ブレインズの大久保翌のレポートと合わせてご紹介します。
- (関連) 滋賀県高度情報化推進会議サイトでの実施報告
【寄稿】 研修後記
滋賀県高度情報化推進会議事務局(滋賀県県民文化生活部IT推進課)小林 潤子さん
平成17年2月23日に、滋賀県高度情報化推進会議の研修事業として、自治体のホームページ(以下、HPとします。)運用責任者、制作担当者等を対象に「自治体のためのWebアクセシビリティ実践講座」を開催しました。
今回の研修の狙いは、Webアクセシビリティや昨年6月に策定されたJIS規格の重要性を認識し、基本を理解し、これからどう取り組んでいくかを学んでいただくことでした。しかし、一般論のみや抽象的な内容では、いくら重要なことでもなかなかピンとこなかったり、そもそも「忙しい」と理由をつけられて、研修に参加してもらえないのではないかと思い、では、私自身が「参加したい」と思える内容にしなければ、という思いがこの企画の始まりでした。
自分の市あるいは町の問題だと強く認識してもらうには、自分の制作しているHPが評価されること、そして講義の内容にリアリティを持たせるには、県内市町のHPを実例として使用することだと思いました。シンプルなアイデアですが、実現には診断に要するコストや、実際のHPを調査することや実例として使用することへの抵抗感への懸念等いくつかの問題がありましたが、皆さまの協力を得て、ひとつひとつクリアできました。
研修を実施した結果は、アンケートでの受講者の意見に現れていました。
特に反響が大きかったのは、障害者のWeb利用の実際をビデオで観たことと、診断結果に基づいた配慮対応のポイント解説でした。
障害者のWeb利用については、まず、障害者にとってWebコンテンツは自力でも利用可能な画期的なメディアであり、利用ニーズが切実であることを認識していただけたことがよかったです。また、例えば読み上げソフトの存在そのものはご存じでも、そのソフトを十分活用できない要因が現在のHPにいくつかみられ、実際にある町の「ごみの出し方」のページを読み上げてみることで、情報が正確に伝わらないこと(文字と文字の間にスペースがあり正確に読み上げない、色に依存した表示である、PDFファイルのみである等)をご理解いただけたことも有意義でした。
次に、診断結果に基づいた配慮対応のポイント解説については、各市町から、「実例による説明がわかりやすい」、「すぐに修正できるものは、さっそく対応したい」との声をいただき、喜んでおります。講師の大久保氏がおっしゃっていたとおり、まずはできることから始めることで、アクセシビリティはアップしていきます。そして、アクセシビリティ配慮のレベルをさらに上げて、それを維持していくためには、組織でどのように取り組んでいくべきかを考えていただければと思っています。
アクセシビリティの重要性が認識されつつありますが、実際は体系的な理解をする機会がなかなかなかったようです。皆さんのお役に立てる研修ができたことを大変嬉しく思いますが、今回の研修があくまでもスタートです。知っていても実際に改善しなければアクセシビリティは当然確保できません。また、受講された方が各組織でHP制作に関わる各課の職員等を啓蒙していただく必要があるのではないでしょうか。
この研修を機に、県や市町が提供するサイトのページが1ページでも多くアクセシビリティに配慮したものになることと、各自治体で中長期的にアクセシビリティを確保する取り組みが進むことを願っています。
研修後記 講師:アライド・ブレインズ 大久保 翌(おおくぼあきら)
情報の少ない市町をフォローする画期的な取組み
最近、地方自治体の方からお話を伺う機会が増えていますが、やはり中央省庁や都道府県に比べ、都道府県下の多くの市町村では、ウェブサイトのアクセシビリティや品質管理の必要性について、情報が圧倒的に不足しています。
その意味で、今回の滋賀県様が企画された、県下の市町に広く呼びかけた診断と研修の取り組みは、大変画期的で意義のあるものだったと思います。このような取り組みのお手伝いをさせていただけたことに、心から感謝すると共に、その機会をいただきました滋賀県様に御礼申し上げます。
全ての自治体でアクセシビリティ上の課題
まず全ての自治体サイトを対象にアクセシビリティの簡易診断を担当させていただきました。各サイトでアクセシビリティ配慮レベルに差はありますが、JIS規格に適合できているかという観点から考えると、充分な対応を行えている自治体はありませんでした。JIS規格は非常に高いレベルの対応を求めていますので、現段階でのその要件に満たないということ自体は、全くやむを得ないことだと思います。
しかし、画像へのalt属性の指定、適切なページタイトル(title要素)など、技術的には難易度が低くかつ重要である最低限の配慮がなされていない自治体が数多く見られたことは残念な結果です。そうような対応レベルにある自治体のサイトでは、サイトを利用できない、情報を読み取れない利用者が生じていることが間違いありません。
取り組みは、まず「知る」ことから始まる
研修会に参加いただいた各自治体の担当者の方々のアンケート結果の概要を拝見しました。
多くの方々が、障害のある方がWebを利用している様子のビデオ映像や解説に、大きな関心を寄せていただいたようです。常々主張しているのですが、ウェブアクセシビリティの理解は、「障害のある方もバリバリとウェブを利用している」事を知り実感することが第一歩になります。その理解が無いままに、alt属性の付け方など制作技術的なことで悩んでいても、なかなか良い結果に繋がらないのです。
今回は、各自治体から1~2名程度の方が参加されていたようです。実際には、ウェブサイトの原稿の準備や、ページ更新、制作会社への発注などに関わっている職員の方はもっとたくさんいらっしゃると思います。今回のような研修会や、例えば ラーニングA.A.O.のような研修教材 を利用して障害のある方のウェブ利用を知る機会を設けることで、できるだけ多くの方に、アクセシビリティ理解の第一歩を踏み出していただきたいと願っています。
概要
- 名称: 自治体のための「Webアクセシビリティ実践講座」
- 日時: 2005年2月23日(水曜日) 13時00分から17時15分まで
- 主催: 滋賀県高度情報化推進会議
- 参加者: 自治体会員(ホームページ運用責任者、制作担当者等)
- 参加費: 無料
- 場所: ピアザ淡海 2階 207会議室
プログラム
- Webアクセシビリティの目的と考え方
- JIS規格制定の背景と基本構成
- 簡易診断結果に基づく配慮対応のポイント
- 行政担当者に求められる対応