技術のベストブレンド
- DESIGN IT! Conference 2006 Spring レポート -
[ 2006年4月28日 ]
執筆担当
伊敷 政英
(いしき まさひで)
4月11日、12日の2日間、東京秋葉原でDESIGN IT! Conference 2006 Springが開催されました。このイベントは、デザインとITの有機的な融合により時代に対応した企業変革をすすめながら、人を中心とした社会を実現していく潮流を作っていくことを目的としています。昨年プレカンファレンスが行われ、今年から本格的な開催となりました。今回のDESIGN IT! のメインテーマは「CMSにみるITデザインの可能性」。ここ数年で利用が急増しているCMS(コンテンツマネジメントシステム)を用いてウェブサイトを作る際にはどんな点に注意したらよいか、膨大な量のコンテンツをすばやく、わかりやすく配信するためにはどのように情報を整理したらよいかなどについて、講演やパネルディスカッションが行われました。
筆者は今回、2日目のセッションに参加してきましたので、そこで感じたことなどを書いてみたいと思います。
「見つけやすさ」とは何か?
2日目最初のプログラムは、ピーターモービル氏による基調講演「アンビエント・ファインダビリティ」でした。ピーターモービル氏は「Web情報アーキテクチャ(オライリー)」(共著)など多くの書籍を執筆している著名な情報アーキテクトです。今回の基調講演では、さまざまな情報の「見つけやすさ(ファインダビリティ)」についてお話されていました。
ウェブにおける見つけやすさ
モービル氏は10年ほど前、「ユーザビリティ」という言葉があまりにもあいまいに、そして安易に使われていることに疲れ果ててしまったそうです。そこで、本当にウェブサイトが”Variable(価値のある)”であるためには何が必要かについて考え、次のような要素が備わっていることが必要であるという結論に達しました。
- 使いやすい(Usable)
- 有益である(Useful)
- 心地よい(Desirable)
- 利用可能である(Accessible)
- 信頼できる(Credible)
- 見つけやすい(Findable)
そして、これらの要素の中でも特に「見つけやすさ」が重要であるとモービル氏は述べています。
では「見つけやすさ」とは何か? モービル氏は、見つけやすさ(ファインダビリティ)には3つの層があると説明していました。
- ウェブサイト自体の見つけやすさ
- ウェブサイト内での情報の見つけやすさ
- 特定の製品やサービスの見つけやすさ
この3つのうち1.の「ウェブサイト自体の見つけやすさ」の例として、モービル氏は National Cancer Institute の事例を紹介していました。ガンについての情報を探してこのサイトを利用するユーザーの多くは、「肺がん」や「胃がん」など特定のガンの名前をキーワードに、検索エンジンで検索してやってきます。ところがこのサイトのトップページには、こうしたガンの種類による索引(インデックス)がなかったため検索エンジンで上位に表示されず、ウェブサイトの存在を広く知らせることができていませんでした。そこで現在のように、ガンの種類による索引をトップページに掲載するようになったということでした。
このように、1. は特にSEO(検索エンジン最適化)と関係が深いと言えます。ウェブサイトを探す手段としては検索エンジンを利用するのが一般的なので、検索結果の上位に表示されることはウェブサイトの見つけやすさに直結します。SEOの最も基本的な部分と、アクセシビリティの基本には多くの共通点がありますので、上の1.はアクセシビリティとも深く関係していると言えるのではないでしょうか。
また上の2.は、膨大な情報をどうやって整理するかといった情報アーキテクチャや、文章の書き方などと関係が深くなります。基調講演の後、この点について「視覚障害者のように音声読み上げソフトを用いてウェブを利用していると、ページ内の目次がとても重要になると思いますが、どう思われますか?」とモービル氏に質問してみたところ、「そのとおりですね。私も何度か音声読み上げソフトを使ってみたことがあるのですが、あれはとても大変でした。ウェブページの中で自分がどこにいるのかさっぱりわかりませんでした。」と答えてくださいました。
さらに3.については、Amazonのカスタマーレビューやエディターレビュー、さまざまな検索オプション(売れている順、価格順、出版年月順などによる並べ替え機能など)について触れていました。
アンビエント・ファインダビリティ
これまではウェブにおける「見つけやすさ」について説明してきましたが、モービル氏は、「見つけやすさ」はウェブに限らず、携帯電話やGPS機能のついたモバイル端末、RFIDタグなどさまざまな機器やサービスにおいて考えることができると述べています。そこで彼は「ファインダビリティ(見つけやすさ)」と言う言葉の範囲を少し広げて、「アンビエント・ファインダビリティ」という新しい言葉を考えました。「アンビエント(ambient)」とは「取り囲む、完全に包囲する」という意味です。モービル氏はアンビエント・ファインダビリティを「誰の居場所でも、何のありかでも、いつでもどこでも見つけることができる」と定義しています。
そして、アンビエント・ファインダビリティを実現するためには、文書のタイトルや著者名などの文書に関する情報をはじめとするメタ情報を付与していくことが重要であるとしています。また、プライバシーや情報倫理についても十分考慮しなければならないと注意を促して講演を終了しました。
モービル氏の講演を聴いて、「ユーザーに心地よくウェブを使ってもらうためには、アクセシビリティだけじゃなくて、情報の整理の仕方とか、セキュリティとか、いろんな技術をうまく組み合わせていく必要があるんだな」と感じました。
講演後、昼食を取るために外へ出ると、コーヒーの芳ばしい香りがしてきました。僕はそのコーヒーの香りで近くにカフェがあることに気づき、「このコーヒーの香りも『見つけやすさ』につながるなぁ」と思いました。