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スマートフォン・タブレットの可能性 iPadは弱視者の生活を変えられるか?
第1回:弱視者の日常生活とIT

[ 2012年2月28日 ]


街を歩く

私は普段、白杖をもって街を歩きます。「白い杖を持っている人はみんな全盲の人だ」というのは誤解です。私が白杖を持つ理由は、階段や暗い場所など見づらいところを歩くときに使うためと、周囲の人々に視覚障害があることに気付いてもらうためです。白杖を持っていれば、どこへでも一人で行きます。

普段から行きなれた場所であれば、道順や目印を十分把握しているのでスムーズに行けるのですが、初めての場所へ行くときには事前に準備をしなければなりません。インターネットを使って、確実に目的地にたどり着くための情報を事前に調べます。

自宅の最寄り駅からの電車の乗り換えや所要時間

「乗換案内」や「駅探」などのサイトで、自宅の最寄駅から目的地の最寄駅までの行き方、乗り換えの仕方、所要時間を調べます。

乗換駅や目的地の最寄駅の構内案内図

乗換駅のホームに降りてからの道順や、改札の場所、トイレの場所などを確認するため、駅構内の案内図を確認して、ある程度は覚えてから出かけます。駅構内案内図は、各鉄道会社のウェブサイトに掲載されているほか、交通エコロジー・モビリティ財団が運営する「らくらくおでかけネット」というウェブサイトでは、バリアフリートイレやエレベーターの場所、駅員による補助の可否など駅のバリアフリーに関する情報も掲載されていて大変便利です。

目的地の最寄駅からの道順

目的地の最寄駅から、最終的な目的地までの道順や目印などを、Googleマップを使って調べます。目印ですが、私は雑貨屋や本屋を見つけられないので、コンビニやガソリンスタンド、ゲームセンターなど明るくて目につきやすいものや、カレー屋、うどん屋、靴屋などにおいの出るお店を目印にするようにしています。

また、最寄駅から目的地への地図は印刷して持ち歩いています。これは途中で迷った時に、周りにいる人に質問できるようにするためです。

普段街を歩いていて不便だな、と思うことがいくつかあります。一番不便と感じるのは、外出先でお店を探すのが難しいことです。たとえば「次の打ち合わせまで1時間ある。どこかに喫茶店ないかなあ。電源が使える喫茶店だとメールの処理ができていいなあ。」という場合や、「郵便局を探して今日中に書類を送らないといけないなあ。近所にないかな。」という場合です。このような時、自分一人で喫茶店や郵便局を探すことはできないので、周りにいる人に聞いて教えてもらっています。

読み書き

私は裸眼で文字を読むことはできません。本や書類を読むときには、拡大読書器という機械を使っています。


拡大読書器

拡大読書器は、書見台の上に書類や本を置くと、上部のモニター(上の写真では家庭用の14インチテレビです)に拡大されて表示されるというものです。
とても便利でよいのですが、どうも仕事や勉強をしているような気持ちになってしまって、小説やエッセイなどをリラックスして読む気分にはなれません。できればソファにゆったり座って、あるいは寝転がって読めるようなものがあればと思っています。

点字や音声に翻訳された本は増えてきていますが、弱視者が読みやすいように配慮された拡大文字の本はとても少ないのが現状です。そのため、弱視者は普通文字の本をメガネやルーペ、拡大読書器などを使って読んでいます。しかし長時間読んでいると目が疲れたり、肩が凝ったり頭痛がしたりと、娯楽として楽しむには難しい面があります。

また教育の場でも大きな課題があります。拡大文字で作成された「拡大教科書」は、弱視のお子さんをもつご両親や学校の先生が手作業で作っていることが多くあります。普通文字の教科書を1ページ1ページ拡大コピーして背中合わせにはり合わせて製本していきます。私も小学生の頃、弱視学級の先生や担任の先生に作っていただいたA3の拡大教科書をルーペで読んでいました。拡大教科書の制作には大変な手間と時間がかかります。また理科や社会科のように図を多く用いる教科の場合、専門的な知識が必要となるため拡大教科書の制作そのものが難しくなるのです。

外出先でのお店選びや気軽な読書は難しい

弱視者の日常生活はパソコンやインターネットの登場によって飛躍的に便利になりました。しかし、外出先でのお店選びや気軽な読書などは、まだまだ難しいです。

次回のコラムでは、このような課題に対して、iPadがどのように役に立つのかお話しします。

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