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ウェブアクセシビリティ向上への道 - だれもが使えるサイトを目指して -
No.14 職員の意識改革を進めるために
技術の習得だけにとらわれずサービス全体をアクセシビリティの視点で検証することが必要

[ 月刊『広報』 平成18年9月号掲載 ]

執筆担当
青木 祐子(あおき ゆうこ)



行政の広報担当者に役立つ実務記事などを中心とした行政広報専門誌、 月刊『広報』 で連載している「ウェブアクセシビリティ向上への道 – だれもが使えるサイトを目指して -」の記事を、日本広報協会様のご好意により、転載させていただきます。

アクセシビリティの確保には、一定の知識と技術が求められます。しかし、何より大切なのは、職員が問題意識を持って対応の必要性を感じ、自発的に取り組むことです。今回は職員の意識改革のために必要なことを考えます。

庁内全体で共通認識を持つ

規模の大きい自治体などでは、各部署で担当分野のページ作成・管理を行っているケースが多いでしょう。この場合、明確なガイドラインやマニュアルがあり、それが周知徹底されないと各部署の対応がバラバラになり、全体の統一がとれなくなります。CMS (注1) を導入していても、適切に対応するためには人の判断が不可欠なことは、皆さんご承知のとおりです。ガイドラインやマニュアルがあっても、「HTMLのコーディングが分からないと使えない」など、担当者のスキルや努力に頼るようなものでは対応に限界があり、人事異動のたびにそのレベルが変わってしまいます。習得する段階で時間や労力を要し、職員が疲弊してしまうようでは、継続した対応は望めません。

また、例えば「ユーザー評価を行いたい」「外部講師を招いて研修を実施したい」と計画しても、事業化して必要な予算を確保するには、直属の上司をはじめ、管理職を含めた関連部署の職員の理解がなければ実現は難しいものです。自らの自治体ではホームページの運営においてアクセシビリティ対応の必要性をどのように位置づけ、どのレベルまで対応するのか、全庁で意思統一を図り、共通認識を持つことが取り組みの第一歩です。

アクセシビリティの基本理念から理解を広める

「アクセシビリティ」という言葉の国民全体の認知率は11.4%、理解率となると4.4%にとどまっています(平成15年2月・国立国語研究所「外来語定着度調査」)。自治体の職員にとっても、まだなじみが薄い言葉です。ホームページのコンテンツ内容については各部署で責任を持つことはまだしも、「アクセシビリティの対応をしましょう」と言われたら、ハードルが高いものに感じるでしょう。

「だれもが」ホームページを使えるように配慮するアクセシビリティの考え方は「障害がある人も、健常者と同等の生活ができることがあたりまえの社会である」というノーマライゼーションの理念に基づいており、自治体の事務の基本である「公平性」にもつながります。この理念は社会構造が大きく変化する中、子どもから高齢者まで、障害のある人もない人も、自立を基本として、ともに生き生きと生活できる社会の実現のために、行政に携わる者は踏まえておくべきものです。様々な職場の職員一人一人がこの理念に立ち、利用者、住民の視点に立って自分の業務を見直してみることが大切です。決してホームページの世界だけのことではありません。

様々な住民サービスの場面でアクセシビリティを考える

例えば、色覚に障害がある方のための色づかいの配慮や、専門用語などを多用しない分かりやすい文章表現は、どの部署でも作成するであろうパンフレットなどの印刷物にも同じように求められます。また、今年3月に開催された総務省主催のウェブアクセシビリティセミナーでは、視覚障害の方から「ホームページで行事の開催を知っても、申込方法がハガキのみでは、人に頼らないと申し込めない」とのお話がありました。障害のある方にとって、自分ですべてできる、ということは重要です。

ウェブアクセシビリティのテクニックを習得することにとらわれ、サービス全体の利用のしやすさを検証する視点が欠けていないでしょうか。広報紙など、他の媒体のアクセシビリティも確保しながらメディアミックスの手法を取り入れたり、進化する携帯電話など、様々なメディアの変化をとらえ、利用動向を見極めて活用を図ったりすることも住民サービスの向上につながります。広い視野に立ち、様々な住民サービスの場面でアクセシビリティを考慮する必要があります。

研修を実施する際のポイント

意識啓発のために必要なこととして、まずは職員研修の実施があげられます。最初のステップは、すべての職員に基本理念を理解してもらうために、多様なユーザーの存在や、ホームページ利用時に起きる問題を認識してもらうことです。総務省「みんなの公共サイト運用モデル」 (注2) のホームページでは、 障害者の利用方法の紹介ビデオ が公開されています。講義だけでなく、映像として見ることで理解を深めることができますので、これを見てもらうのもよいでしょう。さらに、ページを作成する職員には、実務に即した具体的な対応方法の研修を実施し、確実に実施できる技術を身につけてもらいます。作成手順にあわせて必要なポイントを押さえ、できれば実習を取り入れるとよいでしょう。

岡山県では昨年、県内全課・事務所のホームページ担当職員を対象に大規模な研修を実施しました。アクセシビリティ概論を受講後、ホームページ・ビルダーを使用したページ作成と点検方法を実習しました。さらにその後、研修内容を庁内で運用しているe-ラーニングシステムのコンテンツに加え、継続的な学習につなげています。この研修の様子は弊社の「A.A.O.」サイトで紹介していますので、ご参照ください。

JIS規格についての講義写真
写真は、実習の様子(二人で1台のパソコンを使用する)
出所: 岡山県、全庁をあげたウェブアクセシビリティ研修を実施

研修だけでなく、庁内の情報伝達手段を活用して、意識を高める工夫も考えられます。策定したアクセシビリティポリシーやガイドラインを机上のもので終わらせないために、表面だけでない、真に利用者・住民のための心のこもったサービスの提供のために、少しずつでも、庁内のアクセシビリティへの理解を広めていきましょう。

注1 CMS(コンテンツ・マネジメント・システム)
注2 「みんなの公共サイト運用モデル」
平成16年11月17日から開催された「公共分野におけるアクセシビリティの確保に関する研究会」の検討成果として、17年12月15日に総務省より発表。アライド・ブレインズでは、総務省の委託を受けこのモデルの検討を支援してきた。
総務省サイト「みんなの公共サイト運用モデル」

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