ウェブアクセシビリティ向上への道 - だれもが使えるサイトを目指して -
No.02ホームページが持つ可能性
[ 月刊『広報』 平成17年9月号掲載 ]
執筆担当
大久保 翌
(おおくぼ あきら)
行政の広報担当者に役立つ実務記事などを中心とした行政広報専門誌、 月刊『広報』 で連載している「ウェブアクセシビリティ向上への道 – だれもが使えるサイトを目指して -」の記事を、日本広報協会様のご好意により、転載させていただきます。
アクセシビリティに配慮されたホームページは多くの人が制約なく利用できる画期的なメディア
ホームページは、他のメディアと比べてどのような特徴があるのでしょうか?今回は、当たり前のように思えるその特徴を再確認することで、ウェブアクセシビリティの理解を深めましょう。
メディア、コミュニケーション手段を駆使して生活する私たち
ふだんあまり深く考えることがないかもしれませんが、私たちは、実にいろいろな方法で情報を利用しています。
具体的に挙げてみましょう。書籍、新聞、雑誌のような様々な紙の媒体から情報を得ています。テレビやラジオのような放送媒体も生活に欠かせない存在です。電話やファクスを使って情報のやり取りをしています。当然、店に出向いて買い物をしたり、銀行や郵便局、行政の窓口で手続きをしたりするなど、人と対面して情報をやり取りする場面もたくさんあります。
私たちは、このような手段を駆使して生活しているわけですが、ホームページは従来からの様々なメディア、コミュニケーション手段とは違う特徴を持ったものとして登場しました。その特徴をアクセシビリティの面から考えてみましょう。
出掛けられなくても何でもできる
様々な事情で、情報をやり取りしたい先に出向いていけない場合があります。例えば、病気やケガでベッドから起き上がれなかったり、足などに障害があったりして、思うように動けない場合、買いたいものがあっても店に行けないし、銀行の窓口で手続きすることもできません。これまで、そのような場合は、周りのだれかに代わりに行ってもらうなど、他の方法を考えなければなりませんでした。
しかし、最近はだいぶ事情が変わりました。様々なインターネットサービスが充実してきたことで、家から出掛けられなくても、ベッドから起き上がれなくても、オンラインショップで商品を検討して買い物をしたり、オンラインバンキングを利用して振り込みをしたりできるようになっています。省庁や自治体のホームページでは、電子政府、電子自治体のサービスが提供されるようになりました。
ネットワークを通じて情報のやり取りを行うインターネットの世界では、相手に近づいていけなくてもコミュニケーションが成立します。越えようにも越えられなかった空間(距離)というバリアが取り払われ、多様な情報のやり取りを自力で行えるようになったわけです。
利用者の事情に合わせて自在に変換できる
もうひとつ特徴を考えてみましょう。ホームページの情報内容が、電子的に様々に変換できるという特徴です。最もよく知られているのは、音への変換です。ページ内の情報を音に変換するソフト(音声読み上げソフト)を利用することで、目が見えない人でもホームページを利用することができます。
これは極めて画期的な変化でした。目が見えない場合、新聞や広報紙のような紙の媒体に書かれている内容を読むことができません。これまでは、周りのだれかに頼んで読んでもらったり、あるいはカセットテープに声で吹き込まれたり点字に訳されたりするのを待たなければ、情報を得ることができませんでした。
少し想像してみてください。自分の知りたい情報を、利用したいサービスを、他人に頼まなければ利用できない。他の人よりもだいぶ時間がたってからでないと利用できない。しかも、声で吹き込まれたり、点字に訳されたりするのは、世の中にある様々な情報のうちのごくわずかにすぎません。これらがどれほど大きな制約か、お分かりいただけると思います。
ホームページが登場したことで自分の読みたい情報を、新聞社のサイトでも、Yahoo!でも、Googleでも、どこからでも探してきて、リアルタイムに、他人の力を借りる必要なく読み取ることができるようになりました。
画期的なメディアも運営者や制作者に意識がなければ意味がない
このようにホームページは、ネットワークを通じてアクセスされる電子的な情報であるという特徴から、従来の様々なメディアと比べて、多くの人が制約なく利用できる可能性を持った画期的なメディアとして登場しました。ところが現実には、運営者や制作者がそのことを意識していないがために、情報が読めない、サービスが利用できないということが起きてしまっています。本来、だれもが利用できる性質のものであるにもかかわらず、急速に普及する中で、ホームページにかかわる多くの人々にそのことが伝わらなかったのです。例えば、音声で読もうと思っても何も情報が取れない自治体のページは無数に存在します。
とはいえ、ホームページは広く利用されるようになってわずか10年程度。まだまだこれから成長していくメディアです。皆さんが、アクセシビリティという考え方に触れ、「意識して運営・制作をすれば多くの人が制約なく利用できる」ということを自然に受け入れられるようになった時、ホームページは歴史上かつてないユニバーサルなメディアとして発展していることでしょう。
これからの自治体がホームページで提供する情報は、住民をはじめとして情報を得たいと思っただれもが、どんな場所からでもどんな方法でも利用できなければなりません。まずは、その重要性について想像力を膨らませてみることから、一歩を踏み出してください。
- 【ホームページを利用する障害者の声を聞いてみよう】
- アライド・ブレインズが提供するサイト「A.A.O.」では、様々な障害のある方が、「どのようにホームページを利用しているか」「ホームページによって生活がどう変わったか」を紹介している。
- 進行性筋ジストロフィーで重度障害のある栗原征史さんは、唇の接触型スイッチと支援ソフトを使い、パソコンやホームページを便利に利用している(栗原さんの写真)。
- 【こころWeb】
- こころリソースブック編集会の提供する障害者のパソコン、IT機器利用支援の総合サイト。パソコンやインターネットを利用するための支援機器や装置、ユーザ実例が紹介されています。
- 【自治体の対応を支援する総務省の取り組み】
- 総務省では2004年11月から、「公共分野におけるアクセシビリティの確保に関する研究会」を開催中です。アライド・ブレインズでは、事務局を担当し検討を支援しています。
- この研究会では、自治体等のウェブアクセシビリティ対応モデルや、取り組みをサポートする各種手引書について検討を行っています。三つの自治体での実証評価を経て、今年11月に報告書を取りまとめる予定です。関連情報が、総務省のホームページで公開されています。自治体を支援する最新の取り組みとしてご注目ください。