第11回「ウェブアクセシビリティに配慮した情報発信に組織全体で取り組む」(前編)
[ 2020年1月27日 ]
ゲスト
独立行政法人国民生活センター 広報部広報課
課長 菱戸淳二さん
主査 室慎さん
道川智行さん
五味ひなつさん
アライド:国民生活センターでは、1995年にホームページを開設し、2005年度のデザインリニューアル以降、ホームページの検証・試験、職員研修、ガイドライン作成、ユーザー評価等、継続的にアクセシビリティに取り組んでこられました。2005年度という早い時期からアクセシビリティに取り組まれた広報課の皆さんに、これまでの取組や今後の課題について伺いました。
国民生活センターホームページの役割
アライド:ホームページの役割をご紹介ください。
菱戸:国民生活センターでは、ホームページを通じて消費者問題や暮らしの問題に関する情報、例えば契約で騙されたとか、こういう商品でけがをしたなどの情報を発信し、消費者被害の未然防止、拡大防止を目指しています。
ホームページを立ち上げた頃は、各地の消費生活センターにお勤めの相談員や行政職員に向けた情報が多くありましたが、次第に一般の消費者の方への情報発信の場という役割が大きくなっていった印象です。
ホームページの他に、SNSや紙媒体等の情報発信の媒体を持っています。若い方向けには紙媒体にQRコードを付けたり、SNSでつぶやき、そこからホームページに入ってもらうなどしています。年代によって情報発信の媒体を使い分けする過渡期に入ってきていると思います。
2005年から継続してアクセシビリティに取り組む
アライド:2005年度より、アクセシビリティに注目されたのには、どのような背景があったのでしょうか。
菱戸:消費者問題や暮らしの問題は、障害の有無にかかわらず誰にでも関わるものだと考えています。国民生活センターでは、高齢者や障害者を対象とした「見守り新鮮情報」というメールマガジンを発行しています。消費者被害を無くすためには、高齢者・障害者や、その方たちを見守る周りの方たちも対象に含めて情報を発信することが必要です。誰にでもまんべんなく届くよう、情報発信しなければいけないということで、2005年度という早い時期にアクセシビリティを取り入れたのだと思います。
アライド:平成30年度には、総務省が全国230の独立行政法人・地方独立行政法人のホームページを対象にJISの対応状況を調査した結果、問題の割合の低い上位3団体に選ばれました。
菱戸:継続的な取組の成果が出たということで、嬉しいです。皆さんにとって使い勝手のよいページ作りを心掛けていきたいと思います。
ホームページの運営体制
アライド:ホームページ運営の体制をご紹介ください。
菱戸:広報課のホームページ班で担当しています。職員は私を含めて4名、その他に非常勤職員が3名、派遣職員が1名います。情報を発信する原課が原稿を用意し、広報課でCMSを使ってページを作成しています。併せてアクセシビリティのチェックもしていますが、原課にも、アクセシビリティの基本となる部分については、チェックをしてもらうようお願いをしています。問題がある場合には、原課に原稿の修正をお願いすることもあります。
室:2011年に広報課に異動してきた時、アクセシビリティのことを全く知りませんでした。当時広報課にいた者から、トラブルの解決方法を差別なく皆さんに伝えるために、ホームページに障害があっては意味がないと聞きました。私たちは消費者問題や暮らしの問題を情報発信する唯一無二の独立行政法人だと思っていますので、情報の伝え方に差別があったら意味がないということが、すんなりと理解できました。
五味:最初はアクセシビリティ対応をする意味がよくわからず、障害のある一部の方のためにここまでやるのか、と思いました。アライド・ブレインズのセミナーに参加して、実際に障害のある方がインターネットを利用している動画を見た時に、一部の方が対象だとしても、やる意味があるんだと実感しました。
菱戸:広報課に職員が配属されたり非常勤職員が入ったりした際には、まず「国民生活センターホームページ作成ガイドライン」を読んでもらっています。
道川:JISの規格書は中身がわかりにくいですが、ガイドラインは自分たち用にカスタマイズされています。また、各項目について、「職員全体」「HP職員」「システム担当職員」など、参照すべき対象者が仕分けしてあるので、手引きとして使っています。
職員が異動しても組織全体でアクセシビリティ対応が継続する仕組みづくりが必要
アライド:皆さん広報課に来られて何年目ですか?
道川:3年目から4年目の者で担当しています。以前は、1人の職員が長く在籍している傾向がありました。
菱戸:あまり長くいると、思い入れが強くなりすぎてしまい、情報の押し付けになってしまう恐れがあります。自分たちのページではなく、あくまでも利用者の皆さんのページであるということを忘れないようにしてほしいです。
そろそろホームページ担当の職員4人とも異動してもおかしくない時期だと思っています。ホームページ担当が異動してしまっても、アクセシビリティ対応が継続して行われるよう、PDCAの仕組みをうまく作れるとよいと思います。
室:異動が少ないこともあり、以前はホームページ担当に「こうあるべきだ」というのがあり、自分も異動してきたときはそれを覚えるのに必死でした。現在は原稿を作成する各課の職員も含めた研修を行うことなどにより、全職員に徐々にアクセシビリティが浸透しつつあると思います。
菱戸:私が広報に異動した当初は、組織内に「アクセシビリティ対応するのは広報の仕事でしょ」、という雰囲気がありました。ホームページに載せるのは広報かもしれませんが、見せているものは原課で作成する原稿なのですから、原稿を作るところからアクセシビリティに配慮していく必要があると思っています。そこで、原課の職員を含めた研修を定期的に行ったり、コンテンツを1年に1回は見直すことなどをPDCAの1つとして回すことに決めるなど、職員が異動しても、組織全体でアクセシビリティに配慮していける仕組みが必要だと思います。