第11回「ウェブアクセシビリティに配慮した情報発信に組織全体で取り組む」(後編)
[ 2020年1月27日 ]
ゲスト
独立行政法人国民生活センター 広報部広報課
課長 菱戸淳二さん
主査 室慎さん
道川智行さん
五味ひなつさん
公表資料を作る職員対象の研修を通じてアクセシビリティを当たり前のものに
アライド:これまで、2007年、2016年、2017年、2019年の4回、アクセシビリティの職員研修を実施されました。どなたを対象に実施されましたか?
菱戸:2007年と2016年は広報課のホームページ担当職員だけを対象に実施していました。2017年に私が広報課に来た時、アライド・ブレインズのセミナーで手の不自由な方がインターネットを操作しているビデオを見て、これは職員全員に見てもらわなければだめだと思いました。というのは、ホームページの仕事に携わったり記事を書いたりしなくても、情報発信をする機関に勤めている職員として、アクセシビリティを知った上で業務にあたらなければならないと思ったからです。
そこで、2017年度の研修からは、広報課だけを対象にするのはやめました。公表にかかわっている部署の人たちと、興味がある人はすべて出てください、という呼びかけをし、2日間開催しました。「アクセシビリティ対応は広報の仕事だと思っていたけれども、こういう方々に我々の情報は届いているんだな、と意識しながら情報発信しようと思った」などの感想がありました。少しずつ意識の改革が進み始めたと思っています。少しずつ研修の規模を大きくし、定期的に実施することによって、国民生活センターの職員として当たり前に対応するものになっていけばいいと思います。
アクセシビリティを知ってもらうということも、まだ十分ではないと思います。例えば、グラフやアイコンなどに色を使う際の配慮がなかなか理解されません。研修で聞くと「わかった」と思うようですが、では自分の記事で何が問題かというところまで届いていないので、いちいち指摘しないといけません。定着するまでの意識付けや、定着するまでの間をどうすればいいのかが一番難しいところと思います。
室:以前は、グラフを派手に見せたがり、良かれと思ってグラデーションをかけたものを作成する職員がいました。2年前の研修で色を使う際の配慮について説明してからは、グラフの色の使い方に配慮することが浸透してきました。
道川:ホームページでは、相談件数について、グラフで示すことが多いです。多くの人はカラーで見るので、カラーで見たときの見栄えを意識して原稿を作ってしまいますが、モノクロで見る方もいる、と説明しています。
例えば2軸ある棒グラフで、以前は使用する色に配慮がなかったため、白黒印刷すると、両方ともが黒くなってしまい、凡例との対応がわかりませんでした。最近作成されたものは、片方のグラフを白、もう片方を青にするなど改善され、白黒印刷しても違いがわかるようになりました。
菱戸:原課の原稿を作成する担当者は、企画するところから始まり、何か月もかけ、練りに練ってアウトプット(原稿作成)に至っているので、原稿に思い入れがあります。担当者もその上司もグラフが示す意味をよく理解しているのですが、第三者が客観的に見た場合、意味が正しく伝わらないことがあり、そのままホームページに載せられないことがありました。
室:以前は、報告書に載っているグラフを画像に置き換えてページを作っていましたが、見づらかったです。近年は広報課でグラフをテンプレート化し、グラフの内容を説明するテキストを添え、それを原課に確認してもらっています。最初は、なぜ報告書でこう作ったものをそう変えるのかと言われましたが、理解を得られるよう草の根運動をすることによって、報告書を作る時からアクセシビリティに配慮したグラフを作ることが職員に浸透しつつあります。
道川:原課職員は当初、原稿に図だけ載っていれば情報が伝わると思っていました。図だけでは情報が伝わらない人がいるから図の説明となるテキストを書き起こしてくれるよう言うと、「なぜ必要なのか?」と聞かれ、理由を答える、というように、問答をしていきました。今は、原稿の時点で図だけでなく説明のテキストを書いてきてくれるようになりました。
ホームページの課題や今後の予定
アライド:障害者によるユーザー評価を2011年に実施されました。
道川:数年前にもユーザー評価を実施し、その結果を2018年度のリニューアルにつなげられたらよいという話がありましたが、結果的に実施できませんでした。前回のユーザー評価の結果のうち、いくつか今も課題として残っているものがあります。
菱戸:例えば消費生活センターの一覧のページで、市区町村の消費生活センターが自治体コード順に並んでいますが、あいうえお順にならないかというご指摘をいただきました。(注:2020年2月に修正済)
私たちのように見慣れていると、どの辺に何が載っているかわかりますが、初見の方にはわからないと思います。リニューアルもしたので、そろそろこういった課題にも対応しなければと話しています。第三者の客観的なご意見は新鮮なのでありがたいです。非常勤の職員からも、気づきの意見が得られることがあり、月に一度の広報課全員の会議で意見を共有しながら、対応しています。
道川:消費生活センターの一覧を五十音順に並べるというのは、長年の課題だと思っています。よく見られているページなので、それだけ必要とされているのだと思います。利用者の要望にかなうような形で情報の提供を考えていかなければならないと思っています。
アライド:その他にホームページの課題はありますか?
菱戸:国民生活センターホームページは、ページの掲載期限のルールが明確ではありません。マスコミが古いページを見て取材してくることがあり、対応に苦慮するときもあります。まずは過去のページを整理するルールを作り、それに従ってページを整理し、今後同様の問題が発生しないように気を付けるようにするとよいと思っています。
室:リニューアルを見据えて一昨年にJISに基づく試験を実施しました。英語ページを対象外としたので、対象に含めてもクリアになる作りにしたいです。
五味:皆さんにわかりやすいサイトを作りたいという一方、情報を公表する担当課には、早く情報を出したいという事情があります。広報課の立場では、色々な方に情報を見てほしいですし、障害者の方にも情報を届けたいという思いがあります。そう言うと、じゃあもう広報で対応してくれと言われます。皆さんにわかりやすいサイトを作るには、まずは内部の皆で同じ情報を共有しないと難しいと思います。広報課の担当者もいずれ異動するので、広報課の中でも情報が皆一緒でないといけないと思います。
アライド:ウェブアクセシビリティ対応について今後の予定はありますか?
室:一つは研修です。
菱戸:アクセシビリティ対応のPDCAサイクルをうまく回していけるようにしたいと思います。SDGs(持続可能な開発目標)ではないですが、誰一人として取り残さないように情報発信する仕組み作りをしていきたいです。
アライド:他団体へ伝えたいことやアドバイスはありますか?
道川:アクセシビリティは簡単には対応できないということです。継続的に取り組むことが大事です。アクセシビリティ対応のPDCAの仕組みができたら価値があると思います。
菱戸:理解を得られるまでの苦悩を苦悩と思わず草の根の活動を行うことです。
道川:現在は、広報課の担当だけでCMSを操作しているのでアクセシビリティの品質が保ちやすいという部分があるのかもしれません。原課ごとに担当者がCMSの操作をするようになった場合、品質のばらつきをどのようになくしていくかが課題になるでしょう。
菱戸:最初は大変だと思います。研修などを行い、いかに理解者を増やすか。アクセシビリティ対応というと、仕事が今より「ON(上乗せ)される」と思ってしまうようです。今のやり方を変えるだけのことであり、「ONされる」ではなく「Change」という、意識の問題と考えることが重要だと思います。