ウェブ利用の多様さに出会う
[ 2004年3月28日 ]
執筆担当
大久保 翌
(おおくぼ あきら)
アクセシビリティの適切な配慮するには、ウェブを利用しているユーザーの多様性を知ることが欠かせません。今回のコラムでは、自分とは違うウェブ利用の存在に出会うことのインパクトと重要性について考えてみます。
最初はアクセシビリティと聞くたびに窮屈な気持ちに
ウェブのアクセシビリティという概念に初めて出会った頃、私は会社のホームページを担当していました。その当時は、社内の他のメンバーがだいぶ先行してアクセシビリティを勉強していましたが、彼らが外で新しい知識を得てくるたびに、「トップページのここはダメ」「このページのここもダメ」と指摘されました。私はその度になんだか窮屈なところに追いやられていくような気がして、嫌な気持ちになっていたものです。皆さんは似たような経験はありませんか?
私のこの感覚は、これから例に挙げるような機会を得たことで一変しました。
自分とは全く違うウェブ利用と出会う衝撃
私が、音声でのウェブ利用に初めて接したのは、総務省実証実験の協力のお願いに岡山県立盲学校を訪問した時です。担当いただいた先生は全盲の方でした。先生は「中に入っていけなくて困っているサイトがあるので原因が何か見てほしい」とおっしゃって、私の目の前でスクリーンリーダーを使った操作が始まりました。操作メニューの左から「ファイル」「編集」「表示」「お気に入り」とすごい勢いでフォーカス(選択可能領域)が移動し、そのまま「お気に入り」を開いてあるサイトが選択され、今度はそのサイトの中が高速で読み上げられていきます。「あれっ、どこいったかな」と言いながら猛スピードでリンクをたどる姿は、私がイメージしていたものとはあまりにもかけ離れていました。それまでの私は、「音声で使っている人がいる」と情報として認識していただけだったようです。
もうひとつ例を挙げましょう。このサイトでも登場いただいている栗原さんのお宅を訪問したときの話です。詳しくは栗原さんご自身のコメント を読んでいただきたいのですが、栗原さんは唇接触型スイッチを使いオートスキャン方式でパソコンを操作しています。私はその頃、この方式で操作するソフトの開発に携わっていました。ですから、そのようなソフトの機能も利用の仕方も頭に入っているつもりでした。ところが、栗原さんが操作している姿はこれまた私の想像の範囲を超えていました。その操作スピードが尋常ではないのです。目にも留まらぬ速さという言葉がぴったりで、何のどこを操作しているのかが、私にはほとんど分かりません。
お二人の利用の仕方は全然違いますが、私は岡山盲学校でも栗原さんのお宅でも、衝撃を受けて圧倒されました。お二人が、想像の次元が違うほどバリバリと操作していたからです。
アクセシビリティの本質的な理解に繋がる
- 目で画面を見てマウスを操作する方法とは、全く違う使い方でウェブを利用している人がいる
- その人達は、私たちと同じようにバリバリとウェブを活用している
- しかし、設計に配慮の無いコンテンツは、情報が読み取れなかったり、操作利用が出来なかったりする
これは、アクセシビリティを考える上で最も基本的かつ大切な理解だと思います。先にご紹介したような出会いは、これを実感として私に叩き込んでくれました。特に、「バリバリとウェブを活用している」ことは、利用している姿に生で接しなければ実感できなかったことだと思います。自分よりもずっと便利にウェブを使いこなしている障害者の方がたくさんいるということを想像したことがありますか?
ネットワークの向こう側に、そのようなユーザーの姿を想像できるようになったことで、私のウェブ制作に対する考え方は一変しました。
既に取り組まれている方も、これからという方も、関心のない方も、ぜひ自分とは違うウェブ利用に出会うことをお勧めします。コーディングテクニックの習得やガイドラインの解析からスタートするよりも、アクセシビリティが自然な設計の思想として入ってくると思います。頭で考えるよりも体からといった感じです。ひょっとすると、「ウェブで情報を発信すること」や「サイトを設計すること」の考え方が一変するかもしれません。ウェブサイトの担当者の方にも、HTML作成に携わっている方にも、ぜひ経験していただきたいと思います。
適切な配慮のベースとなる
また、このような出会いが取り組みのベースとなることで、他にも良いことがあります。「誰のための何の取り組みか」ということが、ぶれないようになるということです。このことは当たり前のようでいてなかなか難しいことです。特にアクセシビリティが注目されて様々な情報が飛び交うようになる今後は、大変重要になると思います。
「誰のための何の取り組みか」ということが体に染み込んでいれば、細かな技術論ばかりを追いすぎてしまったり、間違った情報に振り回されたりということが避けられます。ガイドラインも正しく理解できるようになりますし、技術的な知識も適切に活かせるようになるでしょう。
障害者や高齢者の方が実際にウェブを使っているところに立ち合わせていただくのが一番です。身近なところで機会を得られるようでしたらぜひ実践してみてください。
その他の方法は?
しかし、そういった機会を得るのはなかなか難しいかもしれません。その場合は、セミナーやワークショップを利用するのが良いと思います。障害者や高齢者のウェブ利用の紹介に力を入れていたり、支援技術を使ったデモンストレーションをきちんと行ってくれたりする企画を選ぶと良いでしょう。
A.A.O.では、そのようなセミナーの情報をニュースコーナーで随時更新しています。また、 企画・開催や講師の派遣 にも対応しています。よろしければご活用ください。